AY 電動ガン Spectre(スペクター)
レビュー: 金子一也 (Gunsmithバトン アキバ店長)
亡霊の名を持つイタリア製サブマシンガン
スペクター(亡霊)は、1980年代初頭、イタリアはトリノのSITES社(Societa Italiana Tecnologie Speciali S.p.A.)に在籍する、Roberto TeppaとClaudio Grittiの二人により、狭所の近接戦闘を想定して設計されたコンパクトサブマシンガンである。
プレス加工からなるそのデザインは古めかしい雰囲気をまとっているが、サブマシンガンとしては比較的新しい部類の製品であり、それまでに無い革新的な機構を備えている。
サブマシンガンと言えばオープンボルト方式が一般的だが、スペクターはボルトが閉鎖した状態から弾丸を発射するクローズドボルト方式を採用し、130mmという短銃身ながら、高い命中精度を実現。また、ボルトの往復運動により圧縮された空気をバレルに吹き付けることで、熱膨張によるトラブルを防ぐという珍しい機構も搭載しているのも大きな特徴と言えるだろう。
通常のサブマシンガンは、弾丸の入ったマガジンを装填し、コッキングハンドルを引けば発射態勢が整うが、スペクターはこの状態からデコッキングレバーを操作しなければ弾丸が発射出来ない特殊な構造となっている。
トリガーの直上に設けられた扇状のレバーがセーフティに見えるが、これはフル、セミオートを切り替えるセレクターレバーで、スペクターには通常あるべきマニュアルセーフティが存在していない。上述のデコッキングレバーが安全装置を兼ね備えるということだろう。ちなみに、セミオートオンリーの民間仕様モデル、スペクターHCでは、セレクターレバーがマニュアルセーフティのレバーとなっている。
全長の半分あたりから下が異様に膨らんだ独特な形状のマガジンは、ダブルカラムマガジンを2本束ねたような構造の複々列弾倉となっており、一般的な30連マガジンとほぼ同じ長さでありながら、50発という装弾数を実現している。ワンマガジンで50発というファイアパワーは、戦う相手にとって大きな脅威となるだろう。
尚、一般に知られている9x19mmパラベラムの他に、9x21mm IMI、40S&W、45ACPと、3種類の弾薬を使用できるバージョンが存在する。
先進的なメカニズムを盛り込み、1984年から製造されたスペクターだったが、イタリアとスイスの特殊部隊に少数が納入されただけに留まり、2001年にはその生産が終了している。
AY 電動ガン スペクター 電動ガンスペック & 弾速データ | |||||||||||||||||||||
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電動ガンとしては初めての製品化、AY製スペクター
映画等での露出が少なく、若いエアガンファンには馴染みが薄いと思われるスペクターだが、ガンスリンガーガール原作のキャラクター、ペトリューシュカの愛銃として、コミックス6巻のカバーに描かれている他、若きナタリー・ポートマンが出演した映画、レオンの劇中にチラッと登場したのが印象に残っている。
二十数年前だっただろうか、今はなきファルコントーイというトイガンメーカーから、BV式のスペクターが発売されていたが、今回レポートをお届けするAY製のスペクターは、昔を知るガンマニアにとって、電動ガンとして生まれ変わり、帰って来た亡霊といった趣の製品である。
上述のファルコントーイ製と、AY製のスペクターを並べて見比べると、外観はほぼ完全なるコピーであることがはっきりわかって非常に興味深い。よくぞこの古い製品を手に入れてコピーしたものだと感心してしまうほどだ。
また、ファルコントーイでは別売りで出来の良い折りたたみストックを発売していたのだが、今回のAY製スペクターにストックのオプションは存在しない。せっかく電動ガンとして発売されたのだから、ストックも作って発売して欲しいところだ。
細長い放熱スリットが入った四角く短いバレルジャケットは、実銃の雰囲気を忠実に再現。分厚いガードに守られたフロントサイトは、上下調整が可能となっている。
バレルジャケットの外形に対し、マズル部分がやや下に下がって見えるのは、Ver.3メカボックスを搭載するに当たって、辻褄を合わせるための工夫だが、この点については後述しよう。
バレルジャケットの右側面には、実銃には無い7コマの20mmレールマウントが取り付けられている。アングルの付いたマウントで光学サイトを取り付けるという手もあるが、インドアフィールドのローライトシチュエーションのために、タクティカルライトを装着するのがベターと思われる。
また、レールマウントを2本のボルトで取り外すと、本来の放熱スリットが顔を覗かせるが、ボルトの台座が四角く盛り上がっているのと、ボルトをねじ込む穴が開いているため、昔のスタイルに拘りたい向きには、穴を埋めて台座を削り落としてしまうのも良いだろう。
バレルジャケットの下に突き出したバーチカルフォアグリップは、AY製品ではバッテリースペースとなっているため、実銃のそれよりも太く、長くアレンジされている。
BATON airsoft製の電動ガン用リポバッテリーであれば、ミニ互換の7.4v2000mAh[30C]が楽々収納出来るので、サバイバルゲームでの使い勝手に優れている。また、底部のフタには樹脂の弾性を利用したロックが付いているため、バッテリースペースへのホコリの侵入を防いでくれるだろう。
複々列式の独特な形状を再現したマガジンは、スプリング式のいわゆるノーマルマガジンで、装弾数は実物通り50発となっている。サバイバルゲーマーはゼンマイ式の多弾マガジンが欲しいかもしれないが、この手の中華エアガンには珍しく、Gunsmithバトンで予備マガジンが販売されているのは実に嬉しいポイントだ。
マガジンキャッチはよくあるテコの原理を利用したタイプだが、トリガーガードの中のキャッチレバーを押し込むことでマガジンを引き抜けるという、一風変わった構造となっている。
レシーバー左側面、実銃ではデコッキングの役目を果たす、グリップ付け根に見えるレバーは、AY製品ではセミ、フルオートを切り替えるセレクターレバーとなっている。機能は実銃と異なるが、グリップを握った右手の親指でセレクターを操作出来るのは歓迎すべきアレンジだろう。
セレクターレバーの後方に見えるスリングスゥイベルは金属製で、グリップフレームの左右どちらにでも付け替えることが可能。実銃でもスゥイベルはこの1箇所にしか設けられていないため、ワンポイントスリングでの運用がそもそもの基本なのだろう。
トリガー付け根の上部に見える扇状のパーツは実銃ではセレクターレバーだが、AY製品のこの部分はフレームと一体成型のモールドとなっている。
本体右側面のデコッキングレバーは、左側面のセレクターレバー同様の一体成型モールドだが、逆に実銃のセレクターレバーにあたる部分は可動式で、トリガーを機械的にロックするマニュアルセーフティレバーとなっている。
リアサイトは凹型に刻まれた極めてシンプルなデザインで、ハンドガンのようなサイトピクチャーを描き出す。
リアサイトの後方、レシーバーの後部を押さえているパーツを持ち上げると、押さえていたフタが取り外せるのだが、実銃ではこのフタを外すことで、ボルトアッセンブリーを後方に抜き出すことが出来る。
左右対称の形状を持つコッキングハンドルを後方に引くと、エジェクションポートからホップ調整ダイヤルが見えるのは、一般的な電動ガンと同様の仕組み。このダイヤルが、初期状態だと節度が無く、射撃の振動でクルクルと回ってホップ調整が狂ってしまうため、Gunsmithバトンではこの症状を改善する工夫を行っている。
チェンバーは中華電動ガンに良く見られる透明樹脂による成形品で、基本的な構造はスタンダード電動ガンのM4用チェンバーに準じている。
インナーバレルは真鍮製のしっかりした物が採用されているのだが、バレル先端、マズル部分に何の押さえも無いため、初期状態では撃つ度にインナーバレルが振動し、発射されたBB弾がすべて明後日の方向に飛んで行く。Gunsmithバトンでは、この部分にも改良を加え、高い命中精度も実現している。
Ver.3メカボックスを搭載した堅実な内部構造
スリムでコンパクトな外観からは、その内部にVer.3タイプのメカボックスが納められているのが信じられないほどだが、画像のように上部をフラットにしたメカボックスを開発することで、その難行を可能としている。
分解のプロセスは実銃に近く、スリングスゥイベルが付いているピンを引き抜き、リアサイト後方のフタを外すところから始まるのだが、アッパーレシーバーとロアレシーバーの結合を解く部分の分解に相当強引な力技が要求されるため、不用意な分解はオススメ出来ない。
画像はアッパーレシーバーとグリップフレームを分解した状態だが、本体構造が極めてシンプルであることが良くわかるだろう。
メカボックスから突き出したエアーノズルが、シリンダーの中心線から下方向にオフセットされているのは、アッパーレシーバーの天面から見て低い位置にバレルが設けられている実銃のデザインを再現するための工夫である。
ただ、この設計が仇となったのか、エアーノズルとチェンバーの軸線が微妙にズレており、未調整の状態だと、エアーノズルがチェンバーの下側に押し付けられた状態で動作しているのだ。このため、隙間から盛大にエアーが漏れて、まともな初速が出ないばかりか、発射されたBB弾に不安定な回転を与える結果となってしまう。
Gunsmithバトンではこの致命的な欠点を改善するため、主要な構成部品に大掛かりな修正を加え、エアーノズルとチェンバーの軸線を揃えており、上述したインナーバレル先端のブレ止め加工と相まって、命中精度の向上を図っている。
グリップフレームと一体化したかのようなVer.3タイプのオリジナルメカボックス。トリガーガード内の、トリガーの後ろにメカボックスの一部が顔を覗かせているあたりからも、ギリギリいっぱいのサイズであることが伺えるだろう。加速シリンダーが採用されているのは、インナーバレルの短いスペクターに最適なセッティングであり、東京マルイ製のMP5Kに見られるような、極端に短いバレルでありながら、不思議なほど遠くまでBB弾が到達する効果が期待出来る構成だ。
フルサイズのライフルに匹敵する飛距離と集弾性
当Airsoft通信で毎回使用している、埼玉県のインドアフィールド、トリガートークの35m屋内レンジに、AY製スペクターを持込み、実射テストを行った。
改めて構えてみると、外装パーツの9割以上が樹脂パーツで構成されているため、マガジンを含めた重量が1500gと驚くほど軽く、358mmというコンパクトさも相まって、片手での射撃もさほど苦にならない。FPSゲームのように、両手に2挺を持ってフィールドを駆け廻りたくなる取り回しの良さだ。
実射テストにあたっては、BATON airsoft電動ガン用リポバッテリーの、7.4v2000mAh[30C]ミニ互換タイプを、BB弾は同じくBATON airsoft製のバイオ0.2g弾を使用した。
まずはセミオートでの実射だが、この銃にはストックが無いため、フォアグリップを握った左手を前方に押し出し、グリップを握った右手を手前に引きつけ、弓を射るような構え方で慎重に撃ってみた。今回は用意出来なかったが、金属製のスゥイベルにスリングを取り付け、構えた際にピンと張る長さに調節することでも、安定した射撃が可能となる。
シンプルなサイトで35m先のマンターゲットの胸部に狙いを付け、トリガーを引き絞ると、流速カスタムのような甲高い炸裂音を立ててBB弾が射出され、狙った位置にまっすぐ吸い込まれて行く。短かいインナーバレルと加速シリンダーの組み合わせが、この素直な弾道を生み出しているのかもしれないが、上述したチェンバーとメカボックスの軸線がきっちり調整されているからこそ、この結果が得られるのだろう。
フルオートのサイクルは約16発毎秒と、比較的ゆっくりした回転数だが、セミオートと変わらぬ弾道で続けざまにターゲットに吸い込まれていくため、制圧力が劣っているという印象はまったく感じられない。このコンパクトさと実射性能は、屋内外を問わず、あらゆるフィールドでその実力を発揮することだろう。また、これはGunsmithバトンでAY製スペクターを買われたサバイバルゲーマーの談によるものだが、50mの距離からのヒットも十分可能とのことだ。
未調整の状態ではまともな性能が望めない、ある意味昔ながらの中華エアガンであるAY製スペクター。採算度外視とも言えるほど手のかかった調整に加え、スイッチの焼けを予防するSBD(ショットキーバリアダイオード)を追加。さらに購入後3ヶ月の無償修理保証も付いた、Gunsmithバトンでの購入を、強くお勧めしたい。
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