映画『SHOCK WAVE 爆弾処理班』 登場銃器解説
香港は、テロリストの人質になった!
爆発物に対する深い知識に加え、現場でも数々の実績を誇るチョン・チョイサン(アンディ・ラウ)は「香港警察爆弾物処理局(EOD-=Explosive Ordnance Disposal)ではNo.1」と誰もが認めるベテランだ。そして今は数々の強盗事件を起こして来た犯罪組織に身分を隠して潜入しており、凶悪な知能犯にして爆弾魔でもある組織のリーダー、ホン・ガイパン(チアン・ウー)にも気に入られる程に深く食い込む事に成功していた。チョンの働きで組織は壊滅状態に追い込まれ、ガイパンの弟ガイビウ(ワン・レオズイ)は逮捕されたが、主犯格のガイパンには逃げられてしまう。
オープニングで注目したいのは主人公のチョン警官と犯人グループのホン兄弟(ガイパン、ガイビウ)の関係性だ。劇中では詳細に描かれないが、ガイパンのカリスマ性と犯罪者としての才能を弟のガイビウは眩しく誇らしく思うと共に恐れてもいるようであり、そんな兄の信頼を短期間で得たチョンを羨ましく思い、また尊敬しているようにも見える。
B&T MP9
元の銃は「TMP(タクティカル・マシン・ピストル)」といい、オーストリアのSTYER(ステアー)社が1980年代に開発。樹脂を多用した本体と銃身そのものが回転し反動を緩衝する独自のメカニズムで小型化を図りつつもMP5と同等の命中精度を実現した次世代型の9mm口径サブマシンガン。後にサプレッサー(減音装置)やグレネードランチャー(榴弾発射器)等を製造・開発するスイス企業ブルッガー&トーメがTMPの製造権利を獲得。更に磨きをかけ「MP9」として完成した。
コブレイM11/9
アメリカで開発された「イングラムM11」という小型サブマシンガンにはいくつかの後継機やコピー品が存在するが、コブレイもその一つ。元々は.380ACPという弾薬用だったがより強力でポピュラーな9mm弾を撃てるように改良されたのがM11/9である。本作では冒頭の強盗団が使用し、「音が繋がって聞こえる」ほど速い20発/秒の発射速度を存分に発揮し大暴れしている。
IMI ミニUZI
1940年代、中東で周囲を敵国に囲まれた形で建国されたイスラエルが国防のため国を挙げて開発したUZI 9mmサブマシンガンの小型・軽量化バージョン。速すぎる発射速度や連射時の反動の強さから警察への導入例はあまりないが、使用目的を選べば攻撃力は抜群だ。
H&K MP5KA4
ドイツのH&K(ヘックラー・ウント・コッホ)社が1960年代に自国の警察用に開発した「9×19mmパラベラム弾」を使用するサブマシンガン。それまでは「広範囲に弾をばら撒く」という設計思想だったサブマシンガンを根本から見直し、遠くの標的をもピンポイントで狙い撃てる精密なメカニズムを敢えて採用。人質がいる状況やVIPの警護にも使用できる精度と高品質さが評価され、現在は世界中で使用されている。極限まで無駄を省いたK(クルツ=短いの意味)モデルは携帯性に優れたバリエーション。本作では強盗団に潜入したチョンが使用し、オープニングの山場でも活躍を見せる。
Glock G17
長らく自国オーストリアの軍需物資を製造していたものの、銃そのものについては門外漢だったグロック社が、既存にない大胆な発想と設計を盛り込んで開発したセミオート・ピストル。1983年のオーストリア軍・警察の制式採用を皮切りにしてその高性能と耐久性から全世界に拡散し、いまや全世界で最も採用数・販売数が多い拳銃となっている。中でもG17はシリーズの基本となる「9×19mm弾」仕様の最もベーシックでポピュラーなモデルだ。香港警察でも現在の標準支給拳銃である。
本作では主人公チョンの同僚にして出世を争うライバルでもあるコン警官(フィリップ・キョン)の愛銃として活躍する。
本来この潜入捜査はコン警官の担当だったが、爆発物の知識が必要な事からチョンに託された。コンはその事を申し訳なく恩義に感じると共に、手柄を立てたチョンに少し嫉妬を覚えている感もある。またこの逮捕劇に際しては、コンやチョンの予測を超えた知能犯だったガイパンの策略により多くの警察官が爆弾や銃撃の犠牲となるが、そんな彼らを想いコンは傷つき涙するのだ。強面からは想像できない繊細な感性の持ち主でもある。
7年後、潜入捜査チームのメンバーや恋人の小学校教師カルメン・リー(ソン・ジア)らも一堂に会し、永年に渡るチョンの功績を表彰する集まりが催された。しかし突然自動車が爆発し、潜入捜査を指揮した警部が死亡する。更に公共の場に特殊な爆弾が仕掛けられるなど、不穏な空気がチョンの周りに漂い始める…。
離婚したばかりの小学校教師カルメンと、これまで仕事一筋で家庭を持つ機会のなかったチョン警官との出会いのシーンは、40代を目前にし心の孤独を抱えた男女のさりげなくも、やきもきさせられるやり取りが秀逸だ。尺こそ短いながらも一本の恋愛ストーリーが仕立てられるほどにその過程が丁寧に綴られ、ドラマチックで心温まるものがある。
またEODの伝説的なベテランであるチョンを囲む香港警察の若いメンバーたちとの何気ないやり取りは、いま仕事や人生の進路に迷っている日本の20代の若い人たちにも元気を与えてくれると思う。
中盤のアクションでは、古い不発弾の処理や、広場に仕掛けられた特殊爆弾の起爆装置を解除する場面など、チョンがその能力を振るうシーンの迫力ある描写に固唾を呑む。と同時に、「この爆弾は無理!」と判断した際の切り替えや割り切り。そしてその後の迅速な行動も、物語の鍵を握る重要な要素になっている。
そして遂に、重武装したテロ集団を引き連れたホン・ガイパンが姿を現す。彼らは香港島と九龍を結ぶ海底トンネルを占拠し、居合わせた百数十台の車と約500人もの市民を人質に取った。そしてトンネルの両側にそれぞれ500kgづつ=合計1,000kgものC4爆薬を仕掛けたのだという。これが同時に爆発したら人質全員が死亡するのはもちろんトンネルも崩落し、香港のみならず世界経済に深刻な打撃をもたらす大惨事になってしまう!
Colt M4A1カービン
現在アメリカ全4軍(陸軍、海軍、空軍、海兵隊)が採用している「5.56×45mmNATO弾」仕様のアサルトカービン。それまで主力だったM16ライフルでは20インチ(=約50cm)あった銃身の長さが 14.5インチ(=約37cm)に短縮されたが、銃身の加工精度や弾薬の改良によって変わらぬ命中精度と殺傷力を維持している、とされる。米軍の現・制式採用小銃だけに数々の映画作品で登場し、本作でもテロリスト・グループに加わっている数人の外国人傭兵らが手にしている。
AK47
旧ソ連軍で1947年に制式採用されたアブトマット・カラシニコフ(=カラシニコフ式自動小銃)を総称してAK(アーカー、もしくはエーケー)と呼ぶ。構造がシンプルで生産性が高く、世界中で同型のコピー銃が多く生産されており、旧共産圏各国、中国、中東、アフリカ等で盛んにコピーされ、一説には現在でも1億挺以上が全世界に存在すると言われる。もちろん犯罪者やテロリストが手にしている確率も極めて高い。本作に登場するものはソ連製に限らず中国製の製の「56式」である可能性もある。また通常モデルの他、折りたたみ式のストック(銃床)を備えたAKS47も混じっている。
ガイパンは政府・警察との交渉窓口に私怨を晴らす目論見もあってチョンを指名し、弟ガイビウの解放と莫大な身代金を要求。チョンと香港警察は48時間のタイムリミットまでに人質を救出し、事件を解決しようと奔走するのだったが、行く手にはガイパンらによって巧妙に仕掛けられた幾重もの罠が待ち受けていた!
ベレッタM92FS
1985年にそれまでの「コルトガバメントM1911A1」の後を引き継ぐ形で米軍の制式採用拳銃となったイタリア製の9mmオートマチック。流麗なフォルムと15+1発の装弾数がもたらす圧倒的な連射性能が「スクリーン映えする!」と’80年代の映画界で大受けし、香港映画『男たちの挽歌』を皮切りに、『リーサル・ウェポン』や『ダイ・ハード』といったアクション映画シリーズでも派手に効果的に使われ、世界有数の人気拳銃となった。
ちなみに本作にはコルトガバメントM1911A1も何人かのテロリストメンバーの手に握られて登場している。
H&K MP5A4
前述したH&K社製MP5サブマシンガンのフルサイズ版。70cm近い全長と3kgほどの重量は9mmサブマシンガンとしては大柄だが、逆に射撃を安定させ命中精度を高める効果があるので、決して標的を外せず一般市民の巻き添えも許されない警察任務には最適の銃である。実際の香港警察でももちろん採用されている。本作に登場するMP5A4の多くには夜間戦闘に備えたフラッシュライト対応のハンドガードが付いている。
大量出演する香港警察が携えるMP5A4の砲列は実に見応えがある。古くから香港は地域を挙げて映画製作に協力的な風土があるため、本作に登場するエキストラは多くが「本物」である可能性が高い。香港警察の現用装備はMP5A4とグロックG17がメインになるのだが、同じく制式採用銃器であるリボルバーのS&W M10ミリタリーポリスやレミントンM870ポリスショットガンの雄姿も垣間見える。
H&K MP5KA4
アクション映画が面白くなるかならないか?の大部分は、悪役の存在感や残酷さも非常に重要だ。その意味で、マシンのように冷徹非情な中にもやや歪んだ孤独感や意外な愛情深さを垣間見せたホン・ガイパン役のチアン・ウーの演技は本当に素晴らしい。後半ではずっとMP5KA4を手にしている。
ところでこの銃がアップになると、レシーバーにエアソフトガンであることを示す刻印が確認でき、またカットによっては一部のパーツが脱落している事も(笑)。じつは香港は日本と同じくらいトイガン文化が発展しており、発砲シーン以外ではエアソフトガンが撮影に用いられることが多いのだ。
トンネルの人質の中には父親の引退を間近に控えた警察官の父子も偶然居合わせており、テロリストたちへの逆襲の機会を狙っていた。しかし若い息子の方の身分がバレ、ホン・ガイパンらによって大量の爆発物を仕掛けた「自爆ベスト」を身体に装着されてしまう。これを解除すべく対峙するチョンと、健気にも耐える若い警官。この二人が見せる勇気と決断は中盤の大きな見所になっている。
クライマックスでチョンは、敵から奪ったB&T MP9を手に、宿敵ホン・ガイパンに肉薄してゆく!
アジアン・クライムドラマの金字塔として名高い香港ノワールの傑作『インファナル・アフェア』シリーズで世界中にその名と顔を知らしめた大スター、アンディ・ラウは本作の主演の他、プロデューサーとしても辣腕を発揮している。監督&脚本に『イップマン 最終章』(13)で知られる実力派ハーマン・ヤウ。さらに香港映画ならではのスピーディかつドラマチックな演出の要となるアクション監督にはハリウッドで『マトリックス リローデッド』や『スパイダーマン2』等も手掛けたディオン・ラム。
香港全土を巻き込む圧倒的スケール感。観る者の予想の一歩先を行くハラハラドキドキのストーリー展開。そしてリアルかつド迫力のガンファイト&カーチェイス&爆発シーンの連続つるべ打ちは、多くのアクション映画ファンを唸らせるだろう。しかし同時に、それなりの人生を経てきた大人同士の切ないラブストーリーは女性やカップルでの視聴にもバッチリであり、さらに登場する老若男女の警察官たちが示す仕事への責任感、社会への正義感、そして人間としての誇りや矜持、といった描写には、これから社会で活躍される20代の方々の胸に強く訴えるものがあると思う。
「スケールの大きなアクションシーンの連続」という縦糸に「繊細かつ丁寧な人間描写」という横糸が丹念に織り込まれ、涙と感動をも呼び起こす極上のエンタテインメント。これこそまさしく香港映画が最も得意とする「濃いめのサービス精神」なのであり、本作は特にそんな萌え要素がギッチリ詰め込まれたテンコ盛りの魅力を放っている。まさにアクション映画の魅力をお腹いっぱい味あわせてくれる快作なのだ。
なお、ブルーレイ&DVDには映像特典として「メイキング」を収録。 アンディ・ラウが爆発物処理のプロというキャラクターづくりに挑む姿や、リアルを追及するスタントシーンや街中でのタフなカーアクション撮影。そして驚愕 のクライマックスシーンでのトンネル爆破シーン撮影秘話まで、作品にかける情熱とスケールに圧倒される舞台裏にも注目だ!
◆特典映像(約10分): メイキング・ 日本版予告・オリジナル
作品DATA
香港警察爆弾処理班が、爆発物を駆使する凶悪な国際テロリストと全面対決!
風光明媚な世界的観光都市=香港の様々な場所に仕掛けられた多種多様な爆弾を解除する緊迫感とスリル。ギリギリの人質交渉、そして激しい銃撃戦とカーチェイス。まさに警察アクションの醍醐味がクライマックスまで炸裂し続ける、驚愕のノンストップアクション大作!
SHOCK WAVE ショック ウェイブ 爆弾処理班
2019年2月20日(水)ブルーレイ&DVDリリース
ブルーレイ通常版:4,700円+税
DVD通常版:3,800円+税
発売元:TBSサービス
販売元:松竹
© 2017 ALL RIGHTS RESERVED BY UNIVERSE ENTERTAINMENT LIMITED / INFINITUS ENTERTAINMENT LIMITED
公式サイト:http://shockwave-movie.jp/
■解説者プロフィール
石井 健夫(いしい たけお) 1967年12月、東京都生まれ。 |
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