マスダヤ ボルト888 MK2
写真&解説 小堀ダイスケ
解説
かつてトイガンの世界で「サンパチ」といえば、マスダヤのボルト888をさす、という時代があった。もちろん、日本人なら三八式歩兵銃をサンパチと呼ぶべきなのだが、当時、三八式のトイガンはミロク精機製の高級模擬銃しか存在せず、一般的なガンファン少年たちにとっては、ボルト888(サンパチ)こそが憧れのサンパチそのものだったのだ。
ボルト888にはモデルとなる実銃が存在しない。今のエアガンファンには信じられないかもしれないが、実銃をモデルにしたトイガンはイコール弾の出ないモデルガンのことを意味し、エアガンという物はオリジナルデザインが当たり前の時代だった。
とはいえ、全体的なフォルムにはかなりの説得力があり、標的射撃競技専用銃としてこんな形のライフルが存在しても決して不思議ではない。
事実、メーカーとしてはあくまでもターゲットシューティングに特化した銃、というコンセプトを前面に押し出しており、装弾数もいさぎよく1発のみ。さらに改良型のMK2では精度向上のためか銃身が延長され、1.5倍のスコープが装備されるなど、玩具銃としては異例ともいえるほどの高級仕様となっていた。
しかし、肝心の命中精度はといえば、コレが全くといっていいほど当たらない。ツヅミ弾の飛距離は最大で約6~7m、まっすぐ(?)飛ぶのはせいぜい2~3mほどで、今の感覚では射撃競技用などと名乗るのが恥ずかしくなるほどのレベルだ。
もっとパワーを上げて、弾も重い物を使えばまた違ったのだろうが、当時、そこを踏み越えるトイガンメーカーはなかった。サバゲーで使うことが大前提となる現在のエアガンとは、時代背景がまったく違ったのだ。
なにを隠そう、ボクも少年時代サンパチには強く憧れていたクチだ。こうして今あらためてスコープを覗いてみると、折れてしまったレティクルの向こう側に、40年という残酷な月日の流れを感じずにはいられない。
標的射撃用としては少々未来的ともいえるフォルム。あくまでもミリタリーライフルではない、というイメージを前面に打ち出そうとしていることがわかるデザインだ。
保護フード付きのフロントサイトだが、標的射撃用のピープサイトではなく縦にブレードが立つ通常の形状。この方が普通のガンファンには狙いやすかったのだろう。
左右の調整が可能なリアサイト。こちらはピープサイトなので、フロントサイトとの兼ね合いが少々おかしいのだが、雰囲気はじゅうぶん。
MK2の目玉でもあるターゲットスコープ。1.5倍でちゃんと狙うことができる本格的な物だ。40年の月日を経てワイヤーのレティクルは切れてしまったが、当時のガンファンたちはこの景色の向こうに夢を見ていたのである。
フォアエンドにあるラッチを押すと銃身基部から2分割できる。標的射撃用と謳いつつも、どこかスパイやスナイパー的な要素を感じさせる部分。
ボルト(シリンダー)はストレートプル。サンダーボルトと機関部が共通であることが分かる。ちなみに一般的な実銃同様にボルトハンドルを上に起こしてコッキングするボルトアクションは、当時、タカトクのSS9000以外になかった。
MK2の前身となる初期型には、柔らかい材質でできたピンク色の「練習弾」と、硬い材質でオレンジ色の「競技弾」という2種類が付属していた。これは後に加わった「ロングショット」というつづみ弾で、もっとも精度が高いとされていた。が、実際にはどれも大差はなく、あくまでも弾を選ぶ、という雰囲気を楽しむためのラインナップだったといえる。つづみ弾については、以前、「つづみ弾大特集!」というコーナーで紹介しているので、ぜひご覧いただきたい。
ボルトをコッキングし、ローディングポートからチャンバーに直接つづみ弾を装填する。装弾数は1発のみなので、マガジンはない。
ボルトをコッキングするとオープンの位置で毎回止まり、レシーバー右側のボルトストップレバーを下げると前進する。おそらく手を挟まないようにとの配慮からだと思われるが、サンダーボルトでは省略されてしまった。
パッケージには「人や動物を絶対に撃ってはいけません!!」の文字が。サバイバルゲームが大前提となる現代のエアガン事情とは、まったく時代背景が違っていたのだ。
DATA
発売年 | 1978年 (ボルト888) 1979年 (ボルト888 MK2) |
発売時価格 | ¥8,000 (ボルト888) ¥9,800 (ボルト888 MK2) |
全長 | 実測 1,003mm |
重量 | 実測 2,004g |
バレル長 | -mm |
発射方式 | プル式エアコッキング |
使用弾 | 7mmつづみ弾 |
装弾数 | 1発 |
平均初速 | 34.2m/s |
撮影協力:サタデーナイトスペシャル
■関連リンク
ビンテージ エアガン レビュー TOP
トイガン史 1963 ~ 1993 - あるガンマニアの追憶 -
モデルガン&エアガンとトイガン業界の歴史
考察 ブローバック・ガスガン