20式5.56mm小銃、9mm拳銃SFP9 自衛隊新小銃と新拳銃 解説
自衛隊が2020年に採用した20式5.56mm小銃と9mm拳銃SFP9を詳細な実銃写真で解説します。報道発表は防衛省にて2020年5月18日にされました。
写真はすべて陸上自衛隊の提供によるものです。また現在確認中の点もありますので、詳細確認次第、修正・追記します。
20式5.56mm小銃
豊和工業が製造したHOWA 5.56が遂に報道公開され、その名称が20式5.56mm小銃と決まった。
20式の呼び方は「にーまるしき」。「1、2、3…」の読み方が、陸空自では「ひと、に、さん…」、海自では「ひと、ふた、さん…」となる。
資料によると使用目的は89式5.56mm小銃の後継として、普通科部隊等に装備し、各種事態において敵人員を撃破するために使用。とある。
■主要諸元
全長 | 銃床縮小時:約779mm、最大伸長時:約851mm |
銃身長 | 330mm |
重量 | 約3.5kg |
口径 | 5.56mm x 45弾 |
装弾数 | 30発 |
発射速度 | 650〜850発/分 |
重量は89式小銃とほぼ同じではあるものの、銃身長は330mm(13インチ)と、89式小銃の420mmよりも短くなっており、閉所戦闘(CQB)での取り回しが良くなっている。
使用する弾薬は5.56mm x 45弾で、89式小銃と同じ。レシーバーの刻印はまだ部隊配備されていないとのことで、試験用小銃となっているが、配備用には20式5.56mm小銃とレーザー刻印されるだろう。
左側にはボルトリリース、マガジンキャッチ、セレクターがある。ボルトリリースはボルトが後退ロックした状態で上側を押すとボルトがリリース、マガジンを抜いた状態でもコッキングハンドルを引き、下側を押すと手動でボルトをロックすることができる。マガジンハウジングには四角形の浅い窪みがあり、管理用のQRコードを貼るのかもしれない。
陸自伝統のア(安全)、タ(単発)、レ(連発)の3ポジションセレクター。レシーバーの形状からするとフルオートポジションまで150度回転くらいの変則角度となりそうだ。
米国MAGPUL社製の樹脂製弾倉(マガジン)、PMAG GEN M3 WINDOWが装着されている。軽量で耐環境性能が高く、米軍でも使用されるベストセラーマガジンの最新型。装弾数は30発。残弾確認が容易な窓が左右についている。またペイントペンドットマトリックスと呼ばれるドット状の窪みには塗料を流し込むことでマーキングし識別できるようになっている。89式小銃の弾倉や、米軍のM4A1カービンなどのSTANAGマガジンとも互換性がある。
レシーバーのマグウェル部はラッパ状に拡大され、89式小銃に比べ格段に弾倉交換しやすくなっている。
3ポートのフラッシュハイダーはダブルナットで固定。銃身には銃剣を取り付けるためのバヨネットラグがある。
89式小銃から大きく変更されたのがオプション装備を取り付けできるハンドガードだ。米国でも最新アサルトライフルに使用されるM-LOK規格のハンドガードを装備。トップ部分にのみピカティニー規格のレイルがあり、側面と下面にはM-LOKの拡張スロットが設けられる。ここに拡張用レイルを取り付けたり、対応するオプションをダイレクトマウントしたりできる。ハンドガードは4.5スロットなので約7.5インチの長さ。使用しないスロットには写真のようにカバーを取り付けておくこともできる。
M-LOKとは米国マグプル社が2014年に開発したオープンライセンスのレイルインターフェイスシステム。
たとえばこの写真にはMAGPUL M-LOK Paraclip Sling Mountが装備され、スリングを取り付けることができる。ハンドガード前端上部にはフリップアップ式のアイアンサイトが装備。またガスピストン方式(恐らくショートストローク式)の作動方式でガス圧を調整するノブがバレル上部に付いている。射撃時に発生した燃焼ガスをガスブロック内へ誘導し、小さなピストンを押すとロッドを通じてボルトキャリアを後方へ押し出す仕組み。
ちなみに米軍の採用するM4A1カービンはダイレクト・インピンジメント作動方式を採用している。これは発射ガスをガスブロックからボルト内部までチューブで導いてボルト作動させる方式で、シンプルで安価・軽量である反面、発射ガスによる汚れが付きやすく、こまめなメンテが必要とされる。また、水に浸かった状態からの作動不良が発生しやすいこともあり、水機団などに優先配備することも考えて、ショートストロークガスピストン方式を採用したのだと考えられる。
レシーバー前ギリギリまであるコッキングハンドル。レシーバーとハンドガードは分離式。
米国Bravo Company USA社のBCMGUNFIGHTER Grip MOD3が装着されている。右下にBCMの刻印があることからもそれがわかる。角度が立ったCQBグリップと呼ばれるもので閉所戦闘での取り回しに優れる。またグリップ内部にはコンパートメントスペースがある。
搭載するスコープは1-8倍のズームスコープ。ディオン光学技研のMarch-F Compact 1x-8x24 Shortyのように見える。ただし、このスコープの採用が陸自として決定したという事ではないとのことだ。もちろん調達予算にも含まれていない。
スイスのB&T社製バイポッド付きフォアグリップ。QDマウントによりレイルに装着されている。
なお、これら装着されているマガジン、グリップ、フォアグリップ等のパーツは今後変更される可能性もあるとのことだった。
このバイポッドは脚部を収納して、射撃時に銃を安定させるフォアグリップとして使用できる優れものではあるが、通常のバイポッドに比べて安定性が悪いのが難点でもある。
可変型のストック、チークピース、銃身長の短縮などで操用性が向上、また、排水性等が向上しているそうだ。
大きめのイジェクションポート内にはホールドオープンしたロッキングラグが見える。また、左右から操作可能なアンビ式のセレクター、ボルトリリースレバー、マガジンリリースボタンがある。チャージングハンドルは右側にも切り替え可能。また、ホールドオープンした状態でチャージングハンドル取り付け部が後退していることから、射撃時にはボルトキャリアに連動してチャージングハンドルが前後に動くものと思われる。
伸縮式の樹脂製ストック。バットプレート横のレバーで5段階(刻印あり)に調節できるようだ。
左側に山形の伸縮用調節ボタンがある。折り畳む(フォールディング)ことはできないので、空挺隊員用のPDWストック、フォールディングストックなどのパーツ供給があるかもしれない。
チークピースは右側の四角いボタンで高さを調節できる。バットプレートには大型のリコイルパッドが付いている。
20式小銃の全体的なデザインは、ベルギーFN社製のSCAR、ドイツH&K社製のHK433、ポーランドFBラドム社製のMSBS GROTなど、欧州で多く見られるヨーロピアンスタイルの小銃と言える。
20式5.56mm小銃をみて気になった点も述べておこう。
1つめはチャージングハンドルの使い勝手で、SCARに比べてレシーバープロファイルが低いので、チャージングハンドルの操作時に、トップレイルに搭載した光学機器のマウントベースやQDレバーに干渉しやすくなったりしないだろうか。レシーバー両サイドに設けられた短いレイルも操作時に手に当たって引っ掛けたりしやすいのではと思う。また薬莢受けを装着する場合はハンドルは左側一択になるだろう。
SCARを参考にした構造であるがゆえの問題として、チャージングハンドルが射撃時にボルトに連動して前後することだ。これは戦闘時に手や装備にあたり、作動不良を発生させる。SCARはこの点も含めて軍に採用されなかったと言われており、のちにハンドルとボルトが非連動型に改修された。SCARの悪い点まで真似をしてしまったというわけだ。M4などのチャージングハンドルと、89式やAKなどのボルトハンドルとでは別の仕様用件で成り立っているからだ。
もうひとつはSCARにも似た伸縮ストックだが、やや大柄でハンドリングしにくそうな印象を受ける。リコイル吸収用の大型バットプレートは上下左右に出っ張っていて、装具に引っかかりやすそうに思えるし、円弧状に膨らんだバットプレートは銃を壁などに立てかけることができない。自衛隊で小銃を立てかけるといった運用はないと聞くが、それでも有事の際には様々な小銃の運用が考えられるだろう。
とはいえ、実に31年ぶりとなった今回の小銃の更新。随所に最新軍用ライフルのトレンドが盛り込まれ、海外製オプションパーツなどを採用し汎用性、操用性に優れた小銃となっていそうだ。まさに令和時代にふさわしい新世代の自衛隊個人装備と言えるだろう。
板妻駐屯地で展示された20式小銃
2023年11月に開催された静岡県の板妻駐屯地の創立記念式典にて展示された20式小銃。
まだ板妻には20式が配備されてないとのことで、滝ヶ原駐屯地から借りてきたそうだ。
口径 5.56x45mm、全長780~851mm、銃身長330mm、重量3.5kg、装弾数30発、ガス圧利用作動方式、製作 豊和工業。
アッパーレシーバーはアルミ製、ロアレシーバーは樹脂製。レシーバーのトップにはピカティニー規格のレイルがあり、レイルの凹みは22スロット、偶数のみガイドナンバーのレーザー刻印がある。
シリアルナンバーは000386、セレクターは、ア(安全)、タ(単発)、レ(連発)の3ポジションでホワイトマーキングも入り視認性が向上した。安全位置で展示してあるので、ハンマーが落ちていても安全装置が掛けられるようだ。
フラッシュハイダーは3ポート。マズルは単なる丸ではなく、ポートに対応した凹みがある。
アルミ製ハンドガードは約7.5インチ。バレル長は330mmなので、約13インチ長となる。M-LOK規格に対応しており、各種オプション器機等を任務にあわせて装着可能だ。
ハンドガード先端のバレル上にガスブロックがあり、ガス圧を調整するつまみがある。ガスブロックの下には着剣ラグがあり、銃剣を取り付けできる。
標準装備の金属製アイアンサイトはフリップアップ式。左側のレバー操作でロックを解除し起倒できる。このアイアンサイトはピカティニーレイルにネジで固定されているので取り外すこともできる。
リアサイトもフリップアップ式。ダイヤルでウインデージ、エレベーションの調節が可能。
ハンドガード左にMAGPULのParaclipスリングマウントが装着されている。
搭載されていたオプティクスはディオン光学技研製のMarch-F 1x-8x24mm Shorty。Marchのロゴが入ったバトラーキャップと、倍率調節用ファストレバーが装着される。豊和製のL型QDマウントでレシーバートップのピカティニーレイルに搭載されている。
ハンドガード側面の短いレイルには薬莢受けを取り付けられる。
ボルトキャッチ、マグリリース、セレクターはすべて左右から操作できるフルアンビ仕様。
グリップは発表当初は米BCM製が取り付けられていたが、量産版では豊和のオリジナルグリップになった。
マガジンはMAGPUL PMAG GEN3 WINDOW。89式の鉄製マガジンは錆びたり、凹んだりして装弾不良を起こすことがあったそうで、PMAGになって便利になったという隊員のお話だった。
ハンドガード下にはスイスのB&T社製バイポッド付きフォアグリップがM-LOKレイルを介して装着される。隊員の話では20式小銃はスペック重量こそ89式小銃とほぼ同じだが、89式に比べて持つとかなり軽く感じるそう。金属製の二脚がなくなり、フォアグリップで保持できるので、とくにフロント重量が軽く感じるとのことだ。
チャージングハンドルは左右どちらにも取り付け可能だが、展示されていた20式は右側にあった。
20式のチャージングハンドルは撃つたびに激しく前後する。後退時はレシーバー上部に搭載のスコープ用QDレバーとかなり近い。実際に隊員がチャージングハンドルを引いていたが、グローブをした手に当たって、引き辛そうだった。
前からみるとQDレバーとコッキングハンドル、ケースディフレクターのタイトな位置関係が分かりやすい。コッキングハンドルを左に取り付けるとサポートハンドの親指に当てやすい。射撃作動中にハンドルが接触すると装填不良を発生させる。20式小銃開発の参考となったベルギーFN社製のSCARではこの問題はすでに改修されている。20式でも今後改修されて欲しい点だ。
ストックは樹脂製でバットプレートはゴム製。5段階に長さを調節でき、チークパッドも上下できる。
フォールディング機構はない。
9mm拳銃SFP9
ドイツのヘッケラー&コック社製SFP9 Mで、MはMaritimeを意味する。使用用途は9mm拳銃の後継として指揮官等に装備し、自衛用に使用。とある。スライド部は金属製で、グリップフレーム部は樹脂製のストライカー式ピストル。
■主要諸元 [ H&K社によるスペック ]
全長 | 186mm |
銃身長 | 104mm |
重量 | 710g ※空マガジン含む |
口径 | 9mm x 19弾 |
装弾数 | 15発 |
各部機能。
■従来の9mm拳銃との主な違い
・従来の9mm拳銃ではハンマー式だったが、SFP9では内蔵式のストライカーになることで、射撃時のブレが軽減。
・樹脂製のグリップフレームになったことで軽量化、耐環境性が向上した。またグリップサイズを任意に交換でき射手に合わせることができる。
・ダブルアクションからシングルアクショントリガーに。
・装弾数が9発から15発に増加
・マガジンキャッチ位置の変更、マニュアルセフティを廃して操作性が向上
刻印はHK SFP 9 M 9mm x 19とあるが部隊配備時には変わるかもしれない。マリタイム版独自の鉾と錨のマークも刻印されている。
使用弾薬は従来同様の9mm x 19弾で装弾数は15発。形状を選択可能なグリップ等により操用性が向上している。スライド下のレバーは分解用のテイクダウンラッチ。
スライドのセレーションが大型化し、雨や海水に濡れたような状況下でも操作しやすくなっている。スライド後端の指掛けも大型化。H&K社のバリエーションとしてマニュアルセフティ付きのものもあるが公開された拳銃はマニュアルセフティの無いタイプだ。グリップ上部のレバーはスライドリリースレバー。
スライド前側のセレーションも大型化されている。フロントサイトは夜間でも視認性の良い非放射性の夜光タイプ。また夜間作戦時などウエポンライト等を装着できるアンダーマウントレイルも備える。
トリガーセフティを備えたシングルアクショントリガー。マガジンリリースは両側から操作できるパドル式。
グリップフレームは樹脂製で、バックストラップとサイドプレートが別パーツとなっていて、使用者の好みで交換できるようになっている。スパイダーマングリップと呼ばれるテクスチャとフィンガーレストで日本人の手にもなじみが良い。筆者は米国版のVP9を何度か撃ったことがあるが、操作性やトリガーフィーリングが他のポリマーフレームピストルに比べても良く感じた。
右側にもスライドリリースレバーを備える。チャンバー側面には後継を示す9mm x 19の刻印。残念ながらオプティックマウントではなかったが、将来的にはOR(オプティックレディ)版も配備されるかもしれない。
防衛省発行による「我が国の防衛と予算-令和2年度概算要求の概要-」によると、
新小銃の取得(3,283丁:10億円)
現有小銃の後継として耐環境性、火力性能及び拡張性に優れた新小銃を整備
新拳銃の取得(323丁:0.3億円)
現有拳銃の後継として、操用性に優れた新拳銃を整備
とあり、単純計算で、新小銃は一丁当たり30万4,600円、新拳銃は一丁当たり92,880円の調達価格となる。
仮に89式小銃14万5千丁と同じ納入数とした場合、年間5,000丁のペースで納入したとしても、29年も掛かってしまい、予算と供給体制のさらなる強化が求められるだろう。
【#陸上自衛隊 の #新小銃 及び #新拳銃】
— 陸上自衛隊 (@JGSDF_pr) May 18, 2020
新たな装備品として「20式5.56mm小銃」と「9mm拳銃SFP9」が導入されました。
新小銃は、可変型の頬・肩当て、銃身を採用し、新拳銃は、形状が選択可能なグリップを採用することで、両者とも相用性が向上!
陸上自衛隊は新たな次元へ pic.twitter.com/9qm20FUZzd
カスタムバリエーションを想像
想像図ですが、20式小銃がショートカービン化可能なのか検討してみました。30年ぶりの国産新小銃ですから、陸自のみならず、様々な国内の法執行機関、部隊で使われて欲しいですね。
最新小銃のひとつのコンセプトとして、"モジュラー化"があります。任務にあわせてバレル長、ハンドガード、グリップ、ストックが容易に変更できるという事もモジュラーライフルの特徴なので、幅広い任務に活用できるようになっていると期待しています。
さらにこちらはピストルギャリバーカービン化版です。さすがにここまでレシーバー形状変わってしまうのはないですかね。
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