89式小銃 実銃レビュー

89式小銃 自衛隊制式採用ライフル 実銃レビュー

自衛隊が1989年に制式採用した89式小銃を詳細な実銃写真で解説します。

純国産の自動小銃
89式小銃は豊和工業によって開発された純国産の自動小銃。64式小銃の後継モデルとして、1989年に自衛隊に制式採用された。自衛隊のほか、海保でも使用される。全長920mm(折り曲げ銃床は最短670mm)、重量3.5kg、銃身長420mm。口径は5.56mm×45弾。発射速度は最大約850発/分、作動方式はロングストロークガスピストン方式。

折り曲げ銃床型
89式小銃は固定銃床型と折り曲げ銃床型の2タイプがあり、上の写真は第一空挺団の使用する折り曲げ銃床型。

二脚(バイポッド)
専守防衛という観点から64式小銃より伝統的に二脚(バイポッド)を標準装備する。二脚は取り外すこともできる。64式小銃に比べて部品点数は10%少なくなっている。反動は5.56mm口径となったことで三点射、フルオート時でも容易とのことだ。

アッパーレシーバー
アッパーレシーバー(尾筒)、ロアレシーバー共にスチールプレス製。右側にコッキングハンドル(槓桿[こうかん])を備えたエジェクションポート、セレクター(切り替えレバー)、マガジンキャッチボタン(弾倉止めボタン)がある。
セレクターはア(安全)、レ(連発)、3(三点射)、タ(単発)の4ポジション。

レシーバー右側には刻印
レシーバー左側には刻印があり、ボルトキャッチ(スライド止め)、左にもセレクターがある。初期の89式小銃には左方セレクターはなかったが、2003年のイラク派遣をきっかけに標準装備されるようになった。

豊和工業の刻印
左から桜のマークと、シリアルナンバー、製造年月、豊和工業の刻印。

固定銃床型のレシーバーエンド
固定銃床型のレシーバーエンド。ロアレシーバー形状が折り曲げ銃床型とは異なる。

89式5.56mm小銃
また、刻印は91年頃の製造までは「89式5.56mm小銃」と刻印があったが、それ以降の生産品では89Rとシンプルな刻印に変更された。

左方セレクターの無い状態
左方セレクターの無い状態。右側のセレクターに連動したポジションインジケーターがある。
弾を撃ち尽くした際に自動でボルトキャリアが後退位置で止まる仕組みになっていて、スライド止めが上方向に移動する。あるいは手動でボルトハンドルを引いてスライド止めを押し上げてボルトキャリアを固定するためのもの。ボルトをリリースする際はスライド止めは使用せずにボルトハンドルを引いてリリースする操作手順となっている。

スライド
スライド(ボルトキャリア)。この内部のボルトは遊底と呼ばれる。

バントガード(被筒)
ハンドガード(被筒)はスチールプレス製のものに樹脂製のカバーが被されている。前部の被筒止め軸で固定されていて簡単に分解可能。

左右分割の2ピース構造
ハンドガードは左右分割の2ピース構造。

ハンドガード底面
ハンドガード底面にはバイポッドを折り畳んだ際にスパイクが収まる穴がある。

バヨネットラグ
バヨネットラグおよび、バイポッド取り付け部。左脚根元にあるレバーでバイポッドを取り外すことができる。

サイドマウントレール
被筒部にサイドマウントレールを装着している。官給品ではなく恐らく隊員の私物だろう。

ロッキングリセス
ロッキングリセス。閉鎖方式はロータリーボルト方式を採用。

レシーバートップ
レシーバートップには空薬莢受けを固定するための突起がある。近年ではここにマウントベースを取り付けて光学照準器を装着する場合もある。

リアサイト
リアサイト(照門)。右のダイヤルで左右、左のダイヤルで上下を調整できる。リアサイト後ろにあるレバーを操作するとM4カービンと同様にアッパーレシーバーを持ち上げてテイクダウンできる。

ピープサイトがせり上がってくる
左のダイヤルを回すとピープサイトが格納状態からせり上がってくる。回し続けると照門はベース内部に引っ込む仕組み。ダイヤルの数字は射距離を意味し、1~5(100m~500m)まで刻まれている。

ガスブロック
ガスブロックと一体になったフロントサイト(照星)ベースと、ガスレギュレーター(規整子)。

規整子
規整子はガスピストンへのガス流入を制限するパーツで、実弾、空砲などの使用時に切り替える。
筒状の部分に大き目の穴と、位置の目印となる小さい穴が3か所に空いている。

フロントサイトピン断面は角型
規整子は中(2小穴)にセットされていることが多い。また、フロントサイトピン断面は角型。
この規整子はねじ込み式になっていて、分解時には取り外すことができる。また、規整子をねじ込んでいくと最後にはそれ以上ねじ込めなくなり、その状態ではガスがカットされてブローバックしなくなる。

レギュレーターは中にセット
こちらの89式も規整子は中にセットされていた。また、規整子を取り外すと、ガス筒および、内部のピストンも取り外せる。

フラッシュハイダーとマズルブレーキの効果を持つ
フラッシュハイダーとマズルブレーキの効果を持つ消炎制退器。もともとは黒色なのだが、メンテナンスで磨かれて銀色になってしまっている。

消炎制退器
新品の消炎制退器はこのような黒色。

フォールディングストック
折り曲げ銃床型のフォールディングストック。ストック根元右側と、バットプレート(床尾板)内側にスリングスイベルがある。

床尾板
バットプレート(床尾板)は×型の滑り止めとなっている。

ストックリリース
ストック根元にある底部のボタンを押すとストックを左側に折り畳める。グリップ背面の穴はコンパートメントスペースのふたを開けるためのロック。


元自衛官に話を聞くと、グリップ(握把)は前後に長く、電動ガンと比べるとトリガーまでがやや長く感じるのだそう。


グリップ内はコンパートメントスペースとなっている。

ドットサイトを搭載
30連の弾倉とドットサイトを搭載した固定銃床型。固定銃床は上から見ると左右非対称形で、右構えはしやすいが左構えはしにくいそう。

官給品のドットサイト
官給品のドットサイト。

ドットサイト1
マウントリングは細身の二か所で固定している。

ドットサイト2
こちらのドットサイトは別形状のマウントリングを採用している。

20連タイプの弾倉
89式小銃は30連と20連の2種類のマガジンがある。こちらは20連タイプの弾倉。どちらのタイプも左側に残弾確認孔がある。

STANAGマガジンとそっくり
マガジン右側から見ると米軍がM16やM4カービンで使用するSTANAGマガジンとそっくりで、互換性もある。

ビニールテープで脱落防止加工
ビニールテープで脱落防止加工を施された89式小銃。バットプレート、ストック根元、レシーバーの前後、グリップ底部、ハンドガード(被筒)、規整子にテープが巻かれている。

左方セレクター
左方セレクターにゴムチューブを切ったものをハメ込んでいる89式小銃をよく見かけるが、これは固定しているバネピンを脱落させないためのものなのだそう。

ボルトリリース
ボルトキャッチ(スライド止め)はM4とは異なり、ホールドオープン時に上がり、押し下げることでリリースする。ただし、ボルトリリースはボルトハンドルを操作して行うことを前提としているので、このスライド止めは本来、ボルトリリースボタンとして設計されていない。

銃剣を装着して行進
銃剣を装着して行進。

着剣した89式小銃
着剣した89式小銃。バレル根元にバヨネットラグ(剣止め)がある。

折り曲げ銃床型を携えて行進
折り曲げ銃床型を携えて行進する空挺団。

空薬莢受けと空砲用のブランクアダプター
空薬莢受けと空砲用のブランクアダプターを装着している。

ブランクアダプター
閉所訓練用のブランクアダプター(空砲発射補助具)。

小型のブランクアダプター
こちらの89式にはより小型の演習用ブランクアダプター(空砲発射補助具)が装着されている。

空薬莢受けを固定している金具
レシーバートップに空薬莢受けを固定している金具が見える。

06式小銃てき弾
06式小銃てき弾(模擬弾)を装着した状態。実弾を発射し尾部の弾丸トラップ方式で発射される仕組み。

突入訓練
突入訓練展示を行う普通科隊員。

狭い室内でも戦闘
そこそこ長い89式小銃を器用に取り回し、狭い室内でも戦闘を繰り広げる。
ちなみに自衛官は年間どれくらい実弾射撃訓練をしているかというと、あくまで聞いた話だが、戦闘職種で年間400~500発程度、後方部隊だと年間100発未満なのだそう。最も実射訓練が多いのは中央即応連隊とのことだ。

偵察バイクでも
偵察バイクでも89式小銃を携えて疾走。

固定銃床型でも問題なくバイクを運転
固定銃床型でも問題なくバイクを運転している。

89式小銃を持って立ち上がる
バイクを運転しながら89式小銃を持って立ち上がるシーンもしばしばみられる。

89式小銃のルーツ、AR18

89式小銃のルーツ、AR18
参考までに習志野駐屯地に展示される64式小銃試験官III型(中央)と、豊和工業製AR18(下)。
AR18は米国アーマライト社が1963年に開発した自動小銃。工業技術が低い第三国でも製作可能なよう、プレス加工部品を多用しているのが特徴。写真のAR18は1966年にアーマライト社と豊和工業が技術提携し、AR18小銃と、その単発のみのAR180小銃のライセンス生産契約を結んだ際に製造されたものであり、オーソドックスなシリンダーとピストンを用いたガス圧利用式だった。

AR18
しかし銃自体の評価としては、プレス加工を多用しているため耐久性が低い(特に床尾部の折り曲げヒンジが非常に弱い)ので、豊和工業では1970年前後にAR18を参考に5.56mm小銃を開発、それが現在自衛隊で使われている89式小銃となった。

89式の問題点

89式は文字通り、1989年に制式採用された小銃で、70年代から80年代にかけて開発されたため、現代の運用思想、設計思想からいえば、すでに時代遅れの面もある。いくつか挙げてみよう。

1.右構えに特化して作られている
89式小銃は右構えで撃つことを前提としてデザインされている。グリップ左に付いたサムレスト、右構えで頬付けしやすいように湾曲(キャストオフ)したストック、そして匍匐した際に地面にこすれて切り替わらないように右面に付けられた切り替え軸などだ。左面セレクターこそ装備したものの、昨今の閉所戦闘や都市戦闘でのニーズから言えば両構え、両側操作が小銃の標準仕様になりつつある。

2.安全からいきなり連射になるセレクター
右に付いた270度回転式のセレクター(切り替え軸)は使い勝手が悪く、素早い操作に適していないばかりか、安全位置からいきなり連射ポジションに入るのは安全上や、射撃手法からしてやはり使い勝手が悪いと言えるだろう。フルオートで弾をバラ撒きながら突撃や白兵戦を行うには良いかもしれないが、現代戦でそのような派手な運用はまずしないだろう。
また、3点バーストモードは80年代の米軍主力ライフルのM16A2に採用された機能だが、90年代のM4A1カービンでは無くされた機能だ。もともと3バーストは戦場で新兵がパニックになって弾をフルオートで撃ち尽くさないために、そして連射時の反動による弾の拡散を抑えるためにフルオートの代わりに付けられたもの。だが、89式では両方が同居している欲張った仕様になっている。無駄弾を撃たせない設計にしたいならば、なおさら安全装置から1段動かした際のポジションは単射(セミオート)にすべきだろう。

3.拡張性の低さ
米軍の主力ライフルは90年代以降、MIL-STD-1913に規格されるピカティニーレールが採用され、ドットサイトやスコープ、ナイトビジョン等の光学照準器、IRレーザーエイミングデバイス、ウエポンライトやフォアグリップなどのオプションを作戦行動に合わせて容易に搭載できるように進化した。今後も歩兵の電子化は進むだろう。89式小銃はもちろんその運用思想が実用化する前に開発されたのでこれら拡張性という面では後れを取っている。

4.スチールプレス製法の制限
スチールプレスによるレシーバーは削り出し加工に比べて、一般的に加工が容易で、生産性が高く、コストが安いというメリットがある。しかしその反面、複雑な形状を再現することができない。
マグキャッチを不意に押さないためのガードがなかったりするのはこのスチールプレス製法が影響している。しかも製造数が少ないので、スチールプレスのコストメリットを生かし切れておらず、諸外国と比較して格段に高価な小銃となっている。※2018年時点での調達総数は14万4千丁で、1丁当たりの価格は20~34万円といわれている。
諸外国の最新小銃では鍛造アルミの削り出し、アルミ押出材の削り出し、エンジニアリングプラスチックをレシーバー部に使用することが多い。

近接戦闘武器としての次期小銃への課題

5.56mm×45弾のアサルトライフルで狙って人物大の的に当てられる距離はせいぜい400m程度、しかもスコープを使っての話で、ドットサイトならもう少し短くなるし、ましてアイアンサイトだとかなり難しい。これが過酷な精神状態に置かれる戦場であればなおさらだ。
運用思想で言えば近接戦闘での使用に重きを置くべき武器であり、昨今ニーズが高まっている都市での市街戦、閉所戦闘、テロ対策および、輸送ヘリや装甲車を使用した機動戦闘での使い勝手向上、小型軽量化は次期小銃の課題といえるだろう。

次期小銃では7.62mm×51弾ライフルとのファミリー化を想定しているようだが、筆者はこれに反対。米軍のように大規模に世界に展開する軍隊であれば運用メリットが出るかもしれないが、自衛隊ならばむしろ11~14インチバレルクラスの5.56mm口径をメインとし、さらに小口径を活かした8インチクラスの短銃身バージョンを採用すべきと考える。陸海航空自衛隊および、海保、警察にまで使用範囲を広げ、調達数を増やして少しでもコストを下げるべきだろう。
7.62mm口径のライフルは現在の自衛隊では使用範囲が限られ、納入数もごくわずかであると思われる。であれば、M24 SWSを採用したように、H&K HK417やKAC SR-25といった海外製の中口径ライフルを輸入、あるいはライセンス生産したほうが良いではないか。

SCAR
5.56mm×45弾と7.62mm×51弾をモジュラー化したライフルというとベルギーFN社のSCARシリーズを思い浮かべるが、長さの大きく異なる2種の弾薬は結局レシーバーやバレル、ボルトなどの主要パーツの互換性はなく、大柄で中途半端となり、米軍でも全面採用が見送られている状況だ。

MCX
ヨーロッパのSIG SAUER社の最新アサルトライフルMCXはマルチキャリバーを謳うが、これも7.62mm口径は薬莢長の短い300BLKやAKで使われる7.62mm×39弾にチェンジできるレベルだ。

HK433
ドイツ軍はすでに樹脂レシーバーのG36を採用しているが、現在H&K社のHK433をトライアル中。アルミ押出材の削出しアッパーに樹脂製のロアレシーバーの組み合わせ。伸縮・折り畳み式ストック。バレルも写真の11インチから20インチと6種もある。

XT97
台湾軍では2000年代後半からXT97試作ライフルが開発され次期小銃の研究が続いている。アルミ押出材の削出しアッパーにアルミ削り出しロアレシーバー、樹脂製伸縮・折り畳み式ストックを採用している。

89式小銃の問題点は配備の遅さにもある。1989年の制式から、30年が経とうとしているが未だに配備されていない部隊があるそうだ。いくら最新設計の銃を作っても配備完了に30年も費やしていてはどうにもならない。これは製造を担当する豊和工業の経営・生産能力の問題なのか、発注側の防衛省の予算問題なのか。
また、製造数を増やすことで低価格化が実現できるのであれば、次期小銃は民間バージョンを作って海外市場へ輸出することも検討してはどうだろうか。企業間競争がないから低価格にならないという点も少しは解決するかもしれない。小銃の技術は特段秘匿性の高いものではなく、すでに枯れた技術である。海外に輸出したところで国の安全保障を脅かすものではない。潜水艦を海外に輸出するよりはよほどマシなのではないだろうか。

2018/07/14

■関連リンク

9mm機関けん銃 実銃レポート 9mm機関けん銃 実銃レポート

妄想兵器研究所 陸上自衛隊 新型小銃 < 20式小銃 > 妄想兵器研究所 陸上自衛隊 新型小銃 < 20式小銃 >

自衛隊&ミリタリーイベント レポート
自衛隊&ミリタリーイベント レポート

東京マルイ 電動ガン 89式 5.56mm小銃 東京マルイ 電動ガン 89式 5.56mm小銃

東京マルイ 電動ガン 89式小銃 折曲銃床式 東京マルイ 電動ガン 89式小銃 折曲銃床式

東京マルイ フェスティバル4 東京マルイ フェスティバル4 89式小銃ガスブロ発表