考察 ブロウバック ガスガン

考察 ブローバック ガスガン 第5章

最後に

最後に、提案という形でこの考察の括りにさせて頂きたい。

まず、本題に入る前に、いたって後ろ向きな事項に関し、話しをしておかなくてはならない。

それは、メーカーは、つまらない感情的な争いを即刻中止すべきであるという点である。この争いが過去或いは現在に至るまで、業界全体のエネルギーを如何に無駄遣いしてきたか、言うまでもない。ユーザーの利益につながらない主張の争いなど、全く百害有って一利無しである。

確かに、知的所有権の保護は、その国の文化レベルを映す鏡の様なモノであるから、いかなる営利業界においても、必ず遵守しなければならない。しかし、その事と、それを理由に、商売としてのみならず、同業他社を蹴落とすことは、全く違った・同一視できない次元の事象であることを認識すべきである。

市場全体が大きく、エネルギーの総量に余裕がある場合、淘汰と自由競争が最終的に市場を成熟させることは間違いない。しかしトイガン業界というのは、残念ながら、現在、極々小さい大きさしかない市場なのである。それでなくとも「銃問題」として、現在この業界が抱えている社会問題は、根本的・一般的にネガティブな状態を強くしつつある。

そういった状態で現在の様な、2つのカンジョウ(勘定と感情)の区別をつけない争いを行いつづけたら、恐らく遠くない将来、この市場そのものがなくなってしまうのではないかと、恐れをいだかざるを得ない。早い話しが、ユーザーに見放されてしまうということだ。

アメリカのガン業界は、長年にわたりアメリカを支配しつづけている兵器産業を構成している巨大な業界である。その事は「ガン・コントロール」の問題が大きく取り扱われている昨今にいたってもなお、NRAが圧力団体として議会に大きな影響を及ぼしている事でも理解できるはずだ。

規模もさる事ながら、たって寄る土台の異なる日本において、そのような米業界の真似をすることは、極めて愚かにして、危険な行為といわざるを得ない。吹けば飛ぶような現在トイガン業界の体力では、今の様な、業界内闘争など市場を冷えさせる役にしか立たない。実際そんなことをやっている場合ではないのだ。


提案1 ライセンスに関わること

今顕在化している事象として、気になるのが、刻印問題である。最近実銃メーカーの刻印についての認識が大きく浮上しつつある。過去日本のトイガンが実銃メーカーより、その商標上の問題で訴えられたことは過去枚挙にいとまがないが、業界内闘争の末期症状が理由とは言え、その事がようやく認識されてきたことは、個人的には喜ばしい。

しかし一方、このまま行くと、各社がバラバラに別々の実銃メーカーパテントを保有し、専属のメーカーの銃をモデルアップするという事態になり兼ねない。これは、これまでの商標権無視の状態より、ある意味危険な状況といわざるを得ない。人気のパテントを所有するメーカーが、短絡的な視野のもと、そのアドバンテージを盾に製品のクオリティを犠牲にする可能性があり、その事実は、短期的にはともかく、中長期的には、市場を縮小す事態を招きかねないからだ。

そこで、提案となる訳だが、各メーカーが個別にパテントを所有するのではなく、業界で法人を設立し、其処で集中して、パテントの契約・管理を行ってはどうだろうか。この新法人は、各パテントをサブライセンスとして、各メーカーに付与することで、会社の運用費を得るのである。

さらに、刻印などの商標上のパテントだけでなく、「マグナ・パテント」に代表されるシステム・パテントの管理も依託実施するという事も可能である。他社が同様のシステムを使用する場合、制度化されたパテント使用料をこの会社を通し、所有者に支払う訳である。また、サードパーティが、パーツを作成する際も同様である。イメージとしては、レコード業界の印税制度のようなものである。

これらのパテントを集中管理する事で、知的所有権の保護と、各メーカーが所有する知的資産を公平に業界が享受することが同時に可能になるのであろう。また、この新法人が、中立的な立場を維持できるように心がければ、危険パーツの審議などを、現在、ASGKやJSAC以上に実質的強制力をもって管理することが可能になるのである。


提案2 市場の拡大について

現在、トイガン業界の最大の課題は、市場の拡大であることは言うまでもない。各メーカーが如何に新製品を開発してしのぎを削ったとしても、市場を拡大しない限り、これ以上の発展は望めない。原資が拡大しない限り、醜いシェアの取り合いに終始せざるを得ないからだ。ある意味、現在の様な事態を招いたのは、業界全般として、この事実を無視してきた結果といえるかもしれない。

なぜトイガン業界の市場が拡大しないのか? それは、実は「社会問題の逆風」などではない。もっと単純で、当たり前のことなのである。すなわち、トイガンを使用する場所がないからである。これは、単純に「使用場所」という点でもそうだし、「使用する理由」という点でもそうである。

手前味噌な話だが、過去 WILD BEARS では、様々トイガンを利用した、企画の実施・参加を行ってきた。それらの実績で思ったことだが、新しいイベントを始めると参加者はそれにあわせて、様々のもの購入するということである。

例えば、ファストドロウを企画すればピースメーカーを、アサルト・マッチを企画すれば、アサルト型のエアガンを、といった具合である。しかも無論、それは銃本体にとどまる話しではない。それに付随して、ホルスターやサイト、スリングやグリップなど実に様々なものを購入していくのである。

当然われわれは、別にメーカーでも販売店でもないので、それによって何か利益を得る訳ではない。しかし、メーカー自身には明らかに利益となるはずである。これは恣意的なものではなく、厳然たる事実である。

こう考えれば、メーカーは、下手な広告を打つより、自社の得意とする製品を使用する場を提供することの方が、よほど実利が有るはずである。

お気づきの様に、これらを実行している メーカーも既に存在する。東京マルイ・マルゼン・ハートフォードの3社である。それ以外のメーカーでもマッチに商品などを提供している所もあるが、はっきりいてこの観点からすれば、あまり有効とは思えない。

電動ガンがある種のハンディを抱えながら、広い購買層を維持しているのは、サバイバル・ゲームというフィールドでその有効性を支持されているからである。しかし、現在一方の雄であるブローバック・ガスガンは、こういった強固な支持層のバックボーンを持っていない。ブローバック・ガスガンを買わなければならない理由が、単に嗜好的な原因によるものしかないのである。

たしかに年数回スチール・チャレンジやIPSC形式の大会が、ユーザーのボランティアにより開催されるが、これすら、メーカー主導ではない。せいぜい商品を提供するぐらいが関の山で、いわばメーカーがユーザーに甘えている構図がここにあるわけである。

これからガスブローバックが強力な支持層を確保・維持していくためには、各イベントをスポーツシューティングとして、一般に定着させる努力をすることが必須となろう。

その為には、トイガン、特にエアガンの社会的なイメージを刷新する必要がある。市場を拡大するという事は、一般ユーザーへ購買層を広げていくことが必要だからである。同時に、より一般的なその取扱やマナーについて、マニュアルや書き物だけにとどまらず、実施レベルで、徹底していく必要がある。そういったモノにも、シューティングイベントは絶好の機会ともなるだろう。

そして、年数回しかない100人以上の大会もさる事ながら、ハウスマッチ的な10人単位のイベントを、少なくとも1ヶ月単位で実施できるような環境(場所や運営組識)を全国で確立すべきである。

これらの実施を現在のユーザーのボランティア的な行動に期待しても不可能である。なぜなら彼らが相手にしなければならないのは、トイガン・フリークではなくあくまでも一般的な人間達だからである。これらは、あくまでも営利目的をもつ企業自身が自身の経営戦略の一環としてやっていかなければ、決して為し得ないといえるであろう。

もちろん、われわれ WILD BEARSや恐らくそれ以外のトイガン・フリーク達も、そういったメーカーの姿勢にたいし、惜しまない協力をすることであろう。あくまでもメーカーが、業界内の近視眼的・感情的なイガミあいから、卒業することが出来たらの話しであるが...

迂遠なようだが、これが、恐らく、ブローバック・ガスガンひいては、トイガン業界が、今後生き残り、更に社会的な地位を確立することの出来る唯一の方法だと思う。

まったく、子供の様な、喧嘩をしている場合ではないのだ。ホントに...

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※本記事は1998年6月22日に「とむべあ」さんが自身のWebサイト「Wildbears」にて掲載されたものを、ご本人の了承を得て転載させていただいています。10年前の記事ではありますが、その内容は非常に興味深く、共感しましたので、ハイパー道楽への転載許可をいただきました。基本的には全文とむべあさんの文章をそのまま掲載しています。

さて、今回とむべあさんの1998年のこの記事を読んで、この10年間、トイガン業界は発展しただろうか? そんな疑問を感じた。10年と言えば、それはそれは長い時間だ。自動車や電化製品、カメラなど他業界の10年と比べてどう進歩したのだろうか? 商品の幅や技術は? コンプライアンスは? CSRは? そしてユーザーの楽しみ方は? 現在、稀に見る不景気と言われているが、そんな時代を乗り越えて10年先のトイガン業界はどのように様変わりするのか? この業界に関わりのあるステークホルダーすべてが考えなくてはならない問題なのだという意識が重要だと思う。

2009/3/21

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