考察 ブロウバック ガスガン

考察 ブローバック ガスガン 第1章

実銃世界でのブローバック・システム

広い意味でのブローバック機能を有する拳銃※1は、実銃のオートマチック・ピストルの世界では、もはや、水や空気の様な、あたり前の存在である。歴史は意外に古く、19世紀までさかのぼる事が可能で※2、20世紀の極めて早い時機には、既にその多くの機能が完成されていた。19世紀後半と言えば、ピースメーカーやウインチェスターのレバー・アクション・ライフルが現役で活躍していた時代であるから、その歴史の古さには驚かれるものがある。

※1 ここでは、発射のガス圧や反動を利用し、スライドやボルトを後退させ、空薬莢を排莢/次弾装填するしくみを持った銃をさす。
※2 アイディアだけなら17世紀までさかのぼる事が出来る。

具体的には、1896年にはモーゼルC96がドイツ/アメリカでパテントを取得、製品化されているし、1908年には名銃ルガーP08が、1911年には、コルトM1911が、それぞれ一国の軍用制式拳銃として、世に出ている。これらは、それに先立ち、各国でさまざまなトライアルを受けているので、その原形の完成は更に5年~10年さかのぼる事が可能である。ちなみに、コルトM1911は(一次大戦を経て若干の改良をうけM1911A1へと進化)、実にこれより70年の長きにわたり、米軍制式拳銃として、ハンドガン界に君臨する。その地位をベレッタ92Fに譲った現在においても、なおセミ・オート・ピストルのマスターピース・オブ・マスターピースともいえる地位は揺るぎないものである。

さて、文頭でのブローバックの表現として"広い意味で"と言う書き方をさせて頂いたが、一般にブローバック・システムとは、ストレート・ブローバックをさす事が多く、ガバメントやハイパワーなどの、ブローニング式ショート・リコイル・システムとは厳密には差別化される。

ストレート・ブローバックシステムとは、最も単純な、ブローバックのシステムで、バレル内の爆発のガス圧を利用し、スライドを押し下げる機構である。若干詳細に書くと、チャンバー内で、火薬が爆発するとバレル内で急速なガスの膨張が起こる。そのガス圧によって、弾を銃口にむけて加速するのだが、当然、物理学の常識として、その力は、バレル内の全ての方向に向かって発生する。実際には、弾と反対方向、すなわちチャンバー内のケースをピストン代わりにして、スライドのブリーチへ伝わる。これによりスライドを押し下げるのだが、この機構ゆえ発射の反作用のほぼ全パワーをスライドが受けてしまい、大量の火薬をもつ強装弾を使用した場合、スライドが自身やフレームを破壊してしまう可能性があり、極めて危険である。この機構では、これに対応するためには、リコイルスプリングを強力にしたり、スライド事態の重量を重く丈夫にし慣性力を大きくするしかないのだが、これでは、ハンドガンとしては極めて扱いにくい物にならざるを得ない。

そのため、ストレート・ブローバックは、.22口径や.25口径といったの比較的、小口径/ローパワーの銃に多く利用されている。ストレート・ブローバック・システムを利用している一般に知られるハンドガンの最大口径は.380ACP弾であったと思う。具体的にはワルサーPPKや、SIG P230などがそれにあたるが、更にハイパワーの9mm×19を使用する大型銃に比べ、意外にもリコイルショックが強いのは、このシステムを持つ事が最大の理由であろう(銃の重量が軽い事も理由のひとつだが)。ハイパワーカートリッジの使用例も無いわけでは無いが、必ずしも成功例とは見られていないのが実態である。前述のショートリコイル・システムや、他の(広い意味での)ブローバックシステムは、より強力なカートリッジを使用するために開発されたと言って、過言ではない。

さて次は、今や9mm×19以上の大口径で一般的な存在であるショート・リコイル・システムについて記そう。ショート・リコイル・システムは、バレルとスライドを一定時間固定(ロッキング)する事により、スライド後退時にかかるパワーの軽減を計ったシステムである。具体的に説明する。弾が射出されると前方向にかかる力が一気喪失し、それまで、ほぼつりあっていたパワーバランスが崩れ、残ったガス圧により、固定されたバレルとスライドが一体になって後退を開始する。一定距離後退すると、スライドはバレルからリリースされ(ロッキングが解除され)、後はスライドだけが、数mm間のロッキング中に受けた慣性力により後退する。リリース後バレルはフレームと一体になり、このフレーム側にて後進力が緩衝される。これにより、後退力は、バレルとスライドに分散され、スライドへは必要最低限の後退力のみが与えられるのである。この一定の時間スライドとバレルを固定し解除するシステムをロッキング機構と呼ぶのだが、このロッキング/アンロッキングの機構の違いによって、幾つかのグループに分ける事が出来る。細分すれば、きりがないのだが、もっともおおざっぱな、わけ方をするとす、ブローニング系とそれ以外と言う事になるだろうか。

ブローニング系(ティルティング・バレル)の筆頭は、言うまでもなく、コルト・ガバメントとFNハイパワーである。加えてS&Wの多くのセミオート・ハンドガンを始め、SIG P210/P220シリーズ、グロック17シリーズ等もこの系列に入れる事が出来る。すなわち、世界のセミオートの保守本流と呼べるのがこの方式なのである。さらに、先に上げたSIG P220シリーズやグロック17シリーズなどでみられる、イジェクションポートそのものを、ロッキングに利用する形態は、モダーンピストルと呼ばれるほとんど新型ピストルの基本的な形態となっている(これとポリマーフレームを組み合わせれば完璧なハイ・スタンダード・モダーン・ピストルである)。上記の2つのシリーズ以外を上げれば、H&K USP、RUGER P/KP85シリーズ、S&Wシグマ、ワルサーP88シリーズ,CZ100などなど、有名どころだけでも枚挙にいとまがない。

さてこの対抗となるのが、ドイツの名銃ワルサーP38等で知られる、プロップ・アップ方式と呼ばれるロッキング機構である。この方式の巨頭は、言うまでもなくベレッタ92Fシリーズである。この92Fは、現行、米軍制式拳銃の地位をかけたトライアルにおいて、先のSIG P220シリーズの代表格である P226との間で、熾烈なデッドヒートを繰り広げた末、ついにその座を勝ち取ったと言う華々しい経歴を持つ(もっとも最終的な決め手となったのは、ベレッタ社の大幅な値引きに有ったのだという噂も有る)。テレビや映画のアクションシーンでも数多く使われるベレッタ社の超ヒット商品である。モーゼルC96や日本の南部14年式などが同じ方式を取る。

ベレッタ社から、ロッキング機構でもう一つ特筆すべき、銃が最近登場した。ベレッタM8000 シリーズ、いわゆるクーガーである。ローティング・バレルと呼ばれるロッキング機構を持つこの銃は、ベレッタ社が92Fシリーズで得た多額の資金を投入して開発を行った、いわば虎の子的な新製品である。それだけに期待される声も高い様だが、ナガタ・イチロー氏のインプレッション記事を読む限り、クーガーのクォリティには高い評価が与えられているものの、このロッキング機構自体には、難しい問題をはらんでいるようだ(バレル・クリアランスの調整など)。

もう一丁、ショート・リコイル・システムを持つ銃で、外せないのが、ルガーP08である。トグル・リコイル・システムと呼ばれるあまりにも有名だが、独特の機構を持つこの銃は、20世紀初頭ドイツ軍の制式拳銃となって以来、百万丁を超える数が生産され、戦線へ投入された。現役(制式拳銃)を引退してより久しい現在でも、多くのコレクター・フリークをもつ、歴史的な名銃の一つに数えられる。

ショート・リコイル・システム以外のブローバック・システムを上げるとすれば、ディレード・ブローバックと呼ばれるシステムが有る。ディレード・ブローバックは、発射に際し発生したガスの一部を利用し、ブローバックを一定時間遅らせる、もしくは、ブローバックの後進力を軽減するというシステムである。詳細にはローラー・ロック、ガス・ロック、インターラプトなどの方式が存在するが、ハンドガンで使用されているのは、ガスロックと呼ばれるシステムである。H&KのP7シリーズ、スタイアーのGBシリーズがこのシステムを有する。しかし、P7はUSPにその地位を譲りつつあるし、GBはオーストリア軍制式拳銃のトライアルでグロックに敗れて以来低迷し、既に生産が中止されたと聞く。ガスロックの仕組みは、発射ガスの一部をバレルから噴出させ、その力でスライドと連結したシリンダーを銃口方向に押し出し、一定時間、スライドの後退パワーを押し留めるというものである。先の2つのシリーズは、寿命を終えた感が有るが、システムとしては、決して、致命的な欠陥があって破綻したわけではないので、いずれこのシステムを使った新型銃が日の目を見る事も有るかもしれない。

最後に一丁忘れてならないのが、ガスオペレーション(ロティティング・ボルト)という方式をとる、IMI社のデザートイーグルである。これは、ガーランドやM14、M16 など、オート/セミオートのライフルに多く利用されている方式で、IMI社は、今まで困難といわれた、強装のカートリッジをハンドガンで使用するためこの方式を採用した。しくみは、チャンバー内にガスバイパスをもうけ、爆発時に発生したガスをそのガスバイパスから取り込み、そのガス圧により、スライド押し下げると言う物である。これにより、.357magや.44magなど、今まで、リボルバー以外では十分その力を発揮できないと言われていた、強装弾を、セミ・オートのハンドガンでも高いレベルで使用できることを証明した。デザート・イーグルには、現在、ハンドガンでは最強弾と呼べる.50AE(アクション・エクスプレス/アメリカで言うマグナムとほぼ同義語)を発射できるモデルも存在する。この口径のオートハンドガンには、他にグリズリー、オートマグVなどが有るが、性能・信頼性・耐久性、全ての面で、このデザートイーグルが群を抜いているといわれる。

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※本記事は1998年6月22日に「とむべあ」さんが自身のWebサイト「Wildbears」にて掲載されたものを、ご本人の了承を得て転載させていただいています。10年前の記事ではありますが、その内容は非常に興味深く、共感しましたので、ハイパー道楽への転載許可をいただきました。基本的には全文とむべあさんの文章をそのまま掲載しています。


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