レビュー: 金子一也
今を去ること77年前の1936年、米軍の歩兵用小銃として制式採用されたM1ガーランド。「ガーランド」という名称はこの銃の設計者であるジョン・ガーランドの名前から来たいわば愛称で、軍内部での正式名称は、U.S.Rifle Cal.30.M1(MODEL1)である。
第二次世界大戦以前の軍用小銃はボルトアクション式のライフルが主流だったが、速射性に欠けるこの方式は火力に欠けていたため、歩兵用自動装填式ライフルの開発は各国軍部にとっての急務であった。しかし、軍用小銃としての大量生産に耐え得る技術力と生産能力、そして消費が増える弾薬の製造と運搬、それらにかかる膨大なコストがネックになり、その開発と運用は決して容易なものではなかった。
この難題を克服し、世界で初めてセミオートマチックライフルを全軍に配備出来たというのは、アメリカという資本主義大国ならではの成果だったと言えるだろう。
自動装填のメカニズムは、弾丸発射時のガス圧を利用したオーソドックスなガスオペレーション式だが、ロータリーロッキング方式によるボルトの閉鎖機構を採用したことで、当時のセミオートマチックライフルとしては異例の高い命中精度を実現している。
また、8発の弾丸が収まった弾薬クリップをボルトを開放した状態でレシーバー内にクリップごと挿入するという独特の装填方式を採っており、当時のマガジン方式よりもリロードが素早く行えた。8発を撃ち尽くすと快音とともにクリップが排出される様は素晴らしくカッコイイのだが、これは敵に弾が無くなったことを教えているようなもので、前線の兵士に不評だったというのも頷ける話だ。
なお、第二次世界大戦終結後、日本の警察予備隊から、改変後の自衛隊に至るまで使用された実績もあり、現在でも儀仗用として使い続けられている。
ICS M1ガーランド 電動ガン スペック & 弾速データ | |||||||||||||||||||||||
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※回転数はトリガーロック解除スイッチを押した場合の参考値。 |
オールドファンにとってはTVドラマのコンバット!で、若い世代には各種FPSにて、その存在が印象的であろうM1ガーランド。これだけメジャーなライフルにも関わらず、今まで電動ガンとしては製品化されていなかったので、ICSからのリリースは世界初の快挙と言って良いだろう。
まずは外箱から眺めてみると、従来のICS製電動ガンに見られるバリエーションに共通した物ではなく、M1ガーランドのためだけの新規デザインとなっている。気になるのは箱の側面に表記されたモデルナンバーで、ICS社のサイトを見るとICS-202がガーランドの製品番号なのだが、その上にあるICS-201という番号に該当する製品が同社サイトに存在しないのである。もしやタンカースモデル(戦車兵用のショートバージョン)の発売が計画されているのでは…などと妄想が膨らんでしまうところだが、いずれICSから何らかの発表があることだろう。
箱を開けると、新築家屋の香りとでも言おうか、真新しい木製ストックの木材の匂いが立ち上って来る。アッパーハンドガード、リアハンドガード、そしてストック本体と、3分割構造となっている木部の表面は滑らかなオイル仕上げとなっており、程よく渋い色合いの、いかにも軍用銃といったイメージを演出している。
箱から出して手に取った第一印象は、とにかくデカイという一言に尽きるだろう。映画やドラマで見た米兵の持つガーランドのイメージよりもひとまわり以上長く、大きく感じられる。
下面が大きく開き、オペレーティングロッドがむき出しになっているアッパーハンドガードは、他のライフルには見られない特徴的な部分で、この銃を知らない人は驚かれることだろう。
ストック本体に目を移せば、スパッと直線的に切り取られた上面と、手元に向かって優しい曲線を描く下面とが生み出す独特の造形が見事に再現されている。構造上グリップ部分にモーターが内蔵されているため、握ると若干太い印象を受けるが、実銃の画像と見比べる分には、全体的なフォルムも含め、さほどディフォルメされているようには感じられない。
樹脂と金属だけで構成された近代ライフルに慣らされた眼に、大柄な木製ストックを持つM1ガーランドは力強くも優しい存在に映るのではないだろうか。
機関部を構成する金属パーツ群はセミグロスブラックの上品な塗装で仕上げられており、実銃の形状がそれぞれ忠実に再現されている。
現在のM4カービンに通ずるデザインのフロントサイトは、ボルトを緩めることで実物同様に左右調整が可能。頑強な構造は一旦位置を決めてしまえば、まず狂うことなど無いだろう。
銃口部分にライフリングのモールド等は無いが、これは実銃もほぼ同様のイメージなので、このシンプルさが正解だと言えるだろう。
マズル下部に見える+状のへこみはガスシリンダースクリューで、アウターバレルの下にあるガスシリンダーのキャップの役割をになっている。もちろん電動ガンであるこの製品では単なるダミーでしかないが、正確に再現されているのはなんともうれしい限りだ。
ガスシリンダーの下面には一体モールドのバヨネットラグが設けられており、その後方にはスタッキングスゥイベルが存在する。
この中央部が切り取られた奇妙なスゥイベルはスリングを通すためのものではなく、銃口付近を頂点に複数の銃を組み合わせて、三角錐状に立てる「叉銃」を行うためのもの。
現代ではほとんど見られないスタイルだが、第二次世界大戦頃までは世界各国の軍隊で行われていたとのことで、そういった時代背景が感じられるのもこの製品の魅力のひとつと言えるだろう。
アッパーハンドガード下に見える溝が入った筒状のパーツはオペレーティングロッドで、
電動ガンにおいては単なる飾りでしかないが、実銃同様にオペレーティングハンドルと連動するのは見た目にも楽しいところだ。
スリングを通すフロントスゥイベルはダイキャスト製ながら、実銃同様の頑丈な造りで、このライフルの重量を支えるに充分な強度は確保されている。
バットプレートには実銃同様、クリーニングキットを収納するためのフタが設けられており、これを開けるとバッテリーコネクターとヒューズにアクセス出来る。フタの開閉は指先でラッチを引いて行うのだが、操作が不必要に硬いといったことは無く、それでいて確実にロックされるバランスの良い作りとなっている。間違ってもゲーム中にフタが開いてバッテリーが飛び出すようなことは無いだろう。
また、Gunsmithバトンだけのオリジナルチューンとして、ヒューズ近くにトリガーロック解除用の小さなスイッチが増設されている(詳細は後述)。
バットストック下部のバットスゥイベルもフロント同様頑丈なダイキャスト製で、運用に当たっての強度的不安は微塵も感じられない。
ボルトまわりの構造は東京マルイから発売されているM14シリーズとほぼ同じなので、多くのエアガンユーザーにとって馴染みのある形だろう。史実としては、M14はM1ガーランドの子孫とも言える存在だが、エアガンならではの逆転現象がまた面白いところだ。
見るからに頑強なオペレーティングハンドルを引くとダミーボルトが僅かに左回転し、ロックを解かれて後退するロータリーボルトの作動は、何の意味も無いとわかっていながら何度でも繰り返してしまう楽しいギミックだ。
リアサイトはエレベーション、ヴィンテージとも実銃同様にクリックストップが設けられており、自由に調整が可能。そのリアサイトが埋め込まれたリアサイトアッセンブリーの形状もM14に酷似しているが、給弾クリップを差し込むための溝が無い等、細かい違いは見受けられる。
特筆すべきはレシーバー後端にあるU.S. RIFLEから始まる刻印で、その最後に刻まれたシリアルナンバーが、すべての個体でそれぞれ異なる本物のシリアルナンバーとなっている点だ。番号だけの話とは言え、自分の購入したガーランドが世界にただ1挺の存在と確認出来るのは、マニア心をくすぐる素晴らしい仕様と言えるだろう。
レシーバー下部、実銃で言うところのトリガーグルーブの底面部分は、ICSオリジナルの着脱式42連マガジンとなっている。本来はクリップ式8連発のガーランドなので、マガジンリリースボタンというものが構造上存在しないのだが、ICSではレシーバー左側面にあるクリップラッチにその役目を割り当てている。
リアルな形状のトリガーガードは、実銃同様スチールプレスで造られた、味も素っ気も無いただの鉄板といった趣だが、これぞ軍用銃といった重厚な雰囲気がたまらなく魅力的だ。
トリガー前方のセーフティレバーもスチール製で、トリガーフィンガーで簡単に操作出来るデザインはサバゲにおいても有利に運用出来るだろう。
台湾のメーカーであるICSの製品はそもそもの基本性能が高いため、Gunsmithバトンによる調整&チューニングによって、その素性の良さが最大限に引き出されている。
最も注目すべきは、前述したトリガーロック解除スイッチの増設であろう。電動ガンをセミオート主体で撃っていると、まれにメカボックスが固まった状態になり、トリガーを引いてもうんともすんとも言わなくなる。この現象を経験された方は少なくないだろう。
これは一旦セレクターをフルオートモードにすることで簡単に解決するのだが、構造上セレクターを持たないセミオートオンリーの電動ガンの場合、この方法の採り様が無いため、簡単に解決することが出来ないわけだ。
このICS製ガーランドも、万が一、トリガーロックが起きた場合は、トリガーグループをごそっと取り外し、メカボ内部の接点スイッチを操作しなければ解除することが出来ない構造となっている。フィールドでの戦闘中にトリガーロックが起きたとして、そんなことをやっている余裕などあるはずも無いので、サイドアームを抜いて戦うハメになるだろう。
Gunsmithバトンチューナー陣はこうした事態を、トリガーロック解除スイッチの増設で見事に解決してのけた。バットプレートのフタを開けてこのスイッチを押し込むことで動作がフルオートになり、トリガーロックが解けるのだ。また、スイッチを押している間はフルオート状態が続くので、緊急時の弾幕用として使うという手も無くはないだろう。
ホップアップの調整は、オペレーティングハンドルを引くと現れるダイヤルを回して行う、ICS製品に共通した仕様。尚、オペレーティングハンドルを引いた状態でマガジンリリースボタンをかねているクリップラッチを押し込むと、ボルトストップがかかった状態を作り出せる。ただ当然ながらマガジンが脱落してしまうので、この操作を行う際にはマガジン底部を押さえておく必要があるだろう。
そのマガジンは42発のBB弾を装填出来る、スプリング給弾式のいわゆるノーマルタイプ。
実銃では8発の7.62mm弾が詰まったクリップを上から押し込むのだが、電動ガンにこの再現までを望むのはさすがに酷というものだろう。
内蔵されたメカボックスはマルイVer.7タイプを踏襲しているが、まったくのコピーでは無く、ガーランド用として新規設計された頑丈なケースが採用されている。メーカー純正でFET回路が標準装備されているというのも嬉しい限りだ。
実射テストにはBATON airsoft製電動ガン用リポバッテリー7.4v2000mAhを使用。30Cという高い放電レートはセミオート時のキレの良さに直結するので、まさにM1ガーランドにうってつけのバッテリーと言えるだろう。
オーソドックスなピープサイトを通して覗くフロントサイトは実に狙いやすく、アイアンサイトでの30メートルからの狙撃も充分可能となっている。Ver.7タイプの流れを汲みながら、ICS独自のノウハウで進化させた新規設計のメカボックスと、頑強なメタルレシーバーが生み出す剛性の高さが、その命中精度に貢献しているのは間違いないだろう。そこにGunsmithバトンチューナー陣による調整&チューンが施されていることで実現した、レールに乗っているかのように素直でストレートな弾道は、撃つことの楽しさを存分に味わわせてくれる。
また、ICSのM1ガーランドは個体や仕様バッテリーによってはセミオートで2回発射してしまうバーストや、BB弾によって2発給弾してしまうクセがあるのだが、いずれもGunsmithバトンで販売するM1ガーランドには対策のチューニングを施してあるので、箱出しで安心して使用出来る。
電動ガンとしては世界初のモデルアップとなった、ICS製M1ガーランド。第二次大戦で使われた銃のエアガンとしても大変貴重な存在なので、今後世界中のマニアに末永く愛されて行くことだろう。
鉄とプラスチックで出来た近代兵器にいささか飽きたとおっしゃる方は、Gunsmithバトンアキバ店にて、是非その迫力をお確かめいただきたい。