レビュー: 金子一也
一般的なボルトアクションライフルには見られない、バレル先端までを覆った独特の木製ストックを持つ、イギリス生まれのリー・エンフィールド小銃。
その誕生は今から118年も前、1895年であり、銃身の長さや各部の仕様、使用する弾薬など、様々に改良を加えられたバリエーションを増やしながら、1958年までの60年余りをイギリス軍の正式小銃として採用され続けた歴史的な名銃。その生産数は推定1億7千万挺を越えるとも言われており、今でもインド警察などの一部の国では現役で使用されている。
当時としては革新的だった着脱式マガジンと、10発という多弾数。また、ボルトハンドルを起こす際の角度と後退距離の短さによる速射性の高さは、同時代の他のボルトアクションライフルには見られなかったもので、イギリスの愛好家の間ではいまだに高い人気を誇っているという。
なお、リー・エンフィールドという名称は、設計者である「ジェームズ・パリス・リー」の名前と、製造場所のロイヤル・スモール・アームズ・ファクトリー(王立小火器工廠)の所在地である「エンフィールド」という地名から付けられている。
IRON AIRSOFT Lee-Enfield No.1 Mk.Ⅲ★ ガスガン スペック & 弾速データ | |||||||||||||||||||||
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常温時:室温19℃ 加熱時:食器乾燥機でマガジンを加熱 |
今回レビューをお届けするIRON AIRSOFT製Lee-Enfield No.1 Mk.Ⅲ★は、同社が初めてリリースした本格的なボルトアクションタイプのガスライフル。自分達が欲しいライフルを造ろうという開発理念のもと、徹底的に拘って設計、製作されたというだけあって、細部に至るまで実銃を精密に再現した、素晴らしい完成度の製品に仕上がっている。
銃身先端部までを包む独特な形状のストックは実物の流麗なフォルムを正確にトレースしており、高級家具に使用される木材を採用したというだけあって木目も非常に美しく、その質感はリー・エンフィールドという銃が持つ気品の高さを感じさせてくれる。
機関部をはじめとする主要パーツは主に亜鉛ダイキャスト製で、手に取った際のかなりズッシリとした重量感を生み出している。しかし肩付けして構えると意外なほどにバランスが良く、左手でフォアエンドを支えてのコッキング動作が無理なくスムーズに行える。このあたり、実銃の設計が優れていたことを実感できて、マニア心がくすぐられるポイントだ。
幅広のフロントサイトガードからバヨネットラグまでが一体になったノーズキャップの頑強な造りが見事に再現されており、英軍マニアならずとも着剣した姿が見たくなってしまうだろう。
また、マズル内部にはライフリングのモールドもしっかりと刻まれ、実感を高めることに成功している。
フォアエンドの中ほどに設けられたスゥイベルバンドとスリングスゥイベルの接続部は、ダイキャスト製ながらガッチリした造りとなっており、専用スリングで肩から吊っても強度的な不安は一切感じられない。
頑丈なリアサイトベースに取り付けられた伝統的なタンジェント型リアサイトも、刻印から調整方法まで実物の構造を完璧なまでに再現。繊細なリアサイトを両サイドから守る肉厚のリアサイトプロテクターも、右側がややオフセットされた独特なデザインが忠実に再現されている。
そしてそのリアサイトまわりが載せられる部分、フロントハンドガードとリアハンドガードの分割部分の上面がフラットに削られた造形と木目の美しさは、ストックに高級木材を採用したこの製品ならではの魅力と言えるだろう。
ボルトまわりもシンプルな構造をそのままに再現しており、ボルトとロッキングラグの精度が高いため、材質が亜鉛でありながら、実銃の売りであるスムーズで素早いコッキング動作が存分に楽しめる。
リー・エンフィールド小銃のチャームポイントのひとつと言える、5発の実弾を装填したクリップが挿し込まれるアーチ状部分の形状の美しさも、この銃を知る者にとってはたまらなく魅力的だ。
また、時代を感じさせる優雅な形状のセーフティレバーも実銃同様に可動するが、もともとの構造上確実なロックがかからないため、この部分は飾りと割り切って、取り扱いに注意する必要があるだろう。
表面を丁寧に仕上げられたボルトハンドルを起こすと、レシーバー側面に深々と刻まれた王立小火器工廠のマークと、Mk.Ⅲ★の刻印が顔を覗かせる。リー・エンフィールド小銃に限らず、イギリス軍で採用された小火器には細かいバリエーションが多数あり、その名称もMk.とNo.が併記され、なおかつ★(スター)が付いたりするので、それぞれの違いを把握するのが非常に困難だ。
IRON AIRSOFTがモデルアップしたNo.1 Mk.Ⅲはスター付きのバージョンで、贅沢な造りだったNo.1 Mk.Ⅲ(★無し)の生産性を高めるため、いくつかの改良と簡略化を施したモデルとなっている。
細長いボルトアッセンブリーは実銃同様のプロセスで抜き取ることが出来るが、実銃ではファイアリングピンとファイアリングピンスプリングが収められているシンプルなこの部分に、マガジンのバルブを叩くためのメカニズムがぎっしりと収められている。
尚、マガジンを抜き取った状態でボルトハンドルを操作すると、マガジンハウジング内に突き出したバルブノッカーがレシーバーに当たり、高確率で破損してしまうため注意が必要だ。
トリガーガードまわりもダイキャスト製の一体構造で、トリガーとともに柔らかなカーブを描く美しいラインを忠実に再現。パーティングラインがきちんと切削されたなめらかな表面仕上げにも、メーカーの拘りがはっきりと見て取れる。
トリガーガード内部の上側にマガジンリリースのレバーがあるのは、近代の銃には無い構造で興味深い部分と言えるだろう。
細身でシャープなバットストックも、実銃の流麗なフォルムの再現にとことん拘って製作され、美しい仕上がりを見せている。短めのサイズは体格の小柄な方でも自然に構えて狙いをつけることが出来るだろう。グリップ部分は日本人の手にも握りやすいサイズで、リー・エンフィールド特有の末端が角張ったフォルムもそのままに造型されている。
鈍い金色に輝くバットプレートは、真鍮の風合いを持たせた亜鉛ダイキャスト製とのことで、どんな手法でこの雰囲気を出しているのかが非常に気になる。
そのバットプレート中央に設けられた開閉式のフタはクリーニングキットを収納するためのスペースで、20センチあまりの深さがある。ここはひとつ、実物のクリーニングキットを入手して忍ばせておきたいところだ。
マガジン本体は重量感たっぷりの亜鉛ダイキャスト製で、装弾数は12発。上面に注入バルブと放出バルブが並んだ一般的なガスガン用マガジンの構造となっている。注入バルブは中華ガスマガジンに良く見られるガスの注入音がしないタイプだが、国内で市販されているトイガン用ガスボンベで何ら問題なく使用可能だ。
ただし、マガジンいっぱいに液化ガスを注入してしまうと気化スペースが確保出来ないため、安定した初速を得られなくなってしまう。射撃環境の気温によって何秒間の注入が理想的であるか、自分だけのデータを把握しておくと良いだろう。
ガスを注入したマガジンを本体に挿入して、ボルトハンドルを操作すると、ボルトアッセンブリー末端のコッキングピースが後退した状態で停止する。つまりは、このコッキングピースの位置を見れば、銃がどのような状態にあるかが一目瞭然に分かるという仕組みだ。
トリガーを引くと、電動ガンに慣れた人差し指には少々重めのトリガープルに一瞬驚かされるが、単純に重いだけで妙な粘り等は無く、しっかりとシアーが切れる感触が味わえるのはガスガンならではの醍醐味だ。
そしてシアーが切れれば、コッキングピースが前進する際の「カチッ!」という音に加え、かなり控えめな「トスッ!」というガスの放出音が聞こえるのみ。当然のことながら、コッキング式エアーガンに付き物のピストンの打撃音が構造上発生しないため、屋外で10メートルも離れたらほどんど聞き取れないほど静かな発射音となっている。これは静粛性を求めるフィールドのスナイパーにとっては非常に有効な特性ではないだろうか。
ガスガンということもあり、今の季節(1月後半)に屋外で使用するには辛いものがあるが、マガジンを暖めれば0.2gのBB弾で90m/sを超える初速を叩きだせるだけのチューニングが、Gunsmithバトンのチューナー陣によって施されている。
集弾性については毎回の発射時のガス圧が不安定なこともあり、電動やコッキング式エアーガンに一歩譲ってしまう部分があるのは否めないが、上記チューナー陣による専用スペーサーの製作とバレルのセンター出し加工の成果もあり、気温とガス圧の条件さえ整えば30メートルからのワンショット・ワンキルも充分可能だろう。
木目と色合いの美しい高級な木材と、丁寧に仕上げられた金属パーツで構成された、フルメタル&リアルウッドのボルトアクションガスライフル、IRON AIRSOFT製Lee-Enfield No.1 Mk.Ⅲ★。
かつて世界の覇権を握った大英帝国の残り香を感じられる高品位な仕上がりと、サバゲでの実用にも耐えるGunsmithバトンによるチューニングの成果の結実を、是非ともその目でお確かめいただきたい。