ストーリー No.28
タイトル:職業選択の理由
投稿者:アサ
ストーリー:
何故殺し屋なんかやってるかって?
理由は簡単だ。そう、簡単なんだ。わかるか、?簡単?だからだよ。
人を殺すのなんて、誰でもできる。道具を使えばさらに、銃なんて使えば最高にお手軽だ。
仕事なら簡単な方がいい。そうだろ?
だから、それが理由だ。
逆に、難しい職業はいくらでもある。
例えば、俺がガキの頃に憧れていた職業だが……料理人ってのがある。アレは難しい。
大雑把な奴はなれはしない。
かといって神経質な奴はやってはいけない。
どちらも殺し屋にはごまんといるが、料理人にはまずいない。
考えてもみろ。
人差し指と親指……俺達にとってはトリガーを引く指とセレクターを変える指だ。
両腕の先に生えているあの二本の指で、料理人は塩を計り、ふりかける。それで味を決める。
信じられるか? そんな大事な作業を指先の感覚と経験、そしてセンスで行うんだ。
スナイパーの指遣いよりはるかに繊細で、精確だ。
あと、ナイフさばき。これもバカにはできない。
プロの料理人にはフルーツの皮をピーラーを使うより薄く綺麗に向ける奴もいれば、ただの野菜をアートのような形に変えちまう奴もいる。
逆に、俺達の同業者にとってナイフってのは、刺したり切ったりするだけが刃物だと思い込んでいる奴が大半だろう。
人間の皮を剥ぐのが得意な知り合いもいるが、あいつのナイフは工具箱の中にある。信じられるか? ヤスリやドライバーと一緒にナイフが入っているんだ!
他にも火の扱いの巧みさも忘れちゃいけない。
俺達が扱う火は熱けりゃ熱いだけ効果的だ。何もかもを消し炭に変えちまうのが理想的だろう。
だが、ステーキにそれを望むバカはこの世にいない。
バカじゃない連中を満足させるために、プロの料理人は絶妙な火加減ってやつを理解し、実践しうる。
仮に、あくまで仮にだが、俺の同業者にコック帽を被せてみようものなら、毎回ブルーレアかベリーウェルダンの間をシーソーゲームだろう。
そんな中でも、とびきりは……やっぱり、手順だろう。
殺しは簡単だ。殴りつけ、腹にナイフを刺して、頭を撃てば終わる。
好みによっては、頭を撃ってから腹にナイフを刺して殴りつけてもいい。
面倒なら、心臓に一発撃ち込むだけでも十分事足りる。
どんな手順を踏んだって、結果的に棺桶には死体が収まるって寸法だ。
だが、料理はそう甘くない。
手順をしくじれば皿に載るのは生ゴミだ。
そうならないために料理人どもはしっかり手順を考える。
間違ってもパスタにソースを絡めてからお湯にぶち込むようなバカはいない。
長々喋ったが、わかるだろ?
殺し屋ってのは、大雑把でも神経質でも、どんな奴でもなれる職業なのさ。
そして仕事は簡単、道具を雑に扱うガサツな奴やバカでさえもやり遂げられる。
何一つスペシャルでもなけりゃ、クールでもない。
誰もが気楽に始められる職業さ。
……ホント、殺しより、料理の方が百倍難しい。
毎日作たって、理想には遠く及ばない。
それを仕事にして、毎日最高の味を生み出し続けるなんざ……プロの料理人ってのは本当に恐ろしい職業さ。
憧れちまうよ。
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