ストーリー No.26
タイトル:同業者たちの集い
投稿者:ダガーダガー
ストーリー:
殺し屋は実在する。報酬と引き換えに人を殺すのが殺し屋なら、まさに俺がそうだ。だから、殺し屋は実在する。俺の他にもいるのかわからない。
報道で銃撃戦があったなんて見た事がないから嘘だろうって?そんなもの、俺もない。、撃って撃たれての銃撃戦はまだない。そうなったらある意味失敗なのだ。しかし、動機不明の自殺者や失踪者はたくさんいるだろう?そういうことだ。
殺し屋に必要なのは段取りと交渉力。ビジネスマンと変わりない。俺はビジネスで殺人を請け負っている。求められるスキルは多分それほど変わらないのだろう。
依頼人との交渉だが、これは他の仕事と変わらない。お互いに金額と条件を提示し合い、折り合ったところで実行に移す。そして段取りを踏んでターゲットを確実に処理できる段階にまで持ち込み、そこで今度はターゲットとの交渉になる。
殺し屋なんだから殺すだけだろって?バカいえ、殺し方にもいろいろあるんだよ。その殺し方でターゲットとの交渉が必要になる。うまくやるにはやはり段取りが必要になる。
殺すことが目的の場合でも俺は3種類のコースを準備し、ターゲットに提示する。
1 松コース 交通事故やその他自然死を装って殺す。残された者には保険金が渡る。
2 竹コース 富士の樹海に放りだす。生き残る目が出る代わりに死ぬときも楽には死ねない。家族に保険金が渡るのは失踪宣告後の話になる。
3 梅コース これが最悪だ。自分でも嫌になる。何らかの方法でターゲットを殺した後、相手の家なり職場なりに覚せい剤と児童ポルノを送り付けると脅迫する。突然の不審死を遂げたターゲットがそんなものにかかわって死んだ事になるのだ。
それを俺はこの小型の銃を見せびらかして、ターゲットと交渉するわけだ。
チェコ製の短機関銃、Vz61スコーピオン。サプレッサにレーザーポインターを結束バンドで括り付けてある。なに、威嚇用だからサイトの取り付けはラフでもいいのだ。
玩具の鉄砲だと鼻で笑う奴も大勢いたが、映画で見たことあるようなレーザーサイトの赤点を見せてやったり、亜音速弾を発射するサプレッサつきのこの銃でフルオートで威嚇射撃をして、まだ熱い薬莢を手のひらに乗せてやると大概納得してくれた。
今日は依頼人との初顔合わせだ。それがなんと映画館。ジョン・ウィックという映画を見ながらということになった。指定した座席に座れば隣の人がターゲットの情報が入った封筒を渡してくれる。確かにこのご時世、デジタルデータのやりとりは危険だ。お互いの顔が見えない薄暗がり、しかし周りにたくさん人がいてお互いに荒事はできない。向うからの指定だったが、俺に異存はなかった。なかなか考える奴だ。
映画の内容は奇しくも俺と同じ、殺し屋の物語だった。こいつは自分を襲ってくる相手に対して正面から立ち向かう。同じ殺し屋でもずいぶん違うものだ。
今まで空いていた隣の席に背の高い痩せた女が座った。依頼人か代理人かはわからなかった。無表情なそいつはカバンの中から無造作に拳銃を抜き出し、俺に突きつけた
「ここで死ぬ?それとも後で死ぬ?撃ったところでみんな映画の音だと思うでしょうね」
なんてこった、初めて会う同業者だ。依頼人に売られたのか、それとも最初から罠か?
俺は銀幕の向こうの同業者をすがるような目で眺めた。後払いで金を払うから、この女を何とかしてくれないか?仲間だろ?しかし彼は自分の戦いで精いっぱいで、俺のことまでは気にしていられないようだった。まあいい、それなら自分で何とかするしかない。俺もコートの内側で握りしめていた、新聞紙でくるんだ蠍の毒針を見せつけた。アンタレスのような赤い星が女の眉間に輝く。「あんたはどうするんだ?」俺の戦いも今始まった。
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