ストーリー No.17
タイトル:金の紋章
投稿者:KEN
ストーリー:
ここは中央ヨーロッパの雪深い山奥、猟師の拠点のような丸太組みの、退役軍人の隠れ家に今日も客が来ている。
「敵対している勢力の有力人物を仕留めて欲しい」
そう、殺しの依頼に来たのだ。
「前金はここに。残りはいつもの銀行の口座に、でよかったな?では。」
客はそう告げるとホットコーヒーの残りをすすり、標的の詳細を書いたメモとなんとか顔がわかる写真を1枚テーブルに置き、MSと書かれた煙草の空箱を握りつぶして自分の地元へと去っていった。
「『ゴールド・エンブレム』に依頼すれば、どんな奴でもじきに、予兆もなく消える…」
そう言われ出してからは、しばらくになる。
この稼業に就く前から、私の腰にはいつも同じ拳銃が刺さっている。
それは「拳銃」で済ませてしまうには惜しい、もはや「相棒」なのである。
仕事に必要な「相棒」とはどんなものであろうか…
ヒットマンと簡単に言えども、そのスタイルは実に幅広い。
スナイパーライフルで遠距離から確実に、静寂を伴って仕留める者。
火力という火力に物を言わせ単身乗り込み、殲滅する者。
どちらもありがちだが、私は該当しない。
私のスタイル、それは「拳銃1丁で標的の虚を突き、近距離で確実に仕留め、速やかにその場を離脱する」ことである。
実に堂々とし、スリルを味わいつつ的確に「相棒」で目標を落とすこと、それを美徳としている。
私の相棒はシングルカラムであるが故に、装弾数が少ない。しかし私のスタイルでそれはさほど問題にはならない。
少ない発射数、もっと言えば3発以内に引導を渡してやることこそが、この要であるからだ。
それは即ち、当てたいところに飛ばすことのできる、高い精度を持ち、握りやすさを兼ね備えた銃でなくてはならない。
この稼業についてからは長いほうであるが、相棒の選定には譲れないものがある。
それは「艶」である。
前述の通り、重視している点ももちろんあるが、それらは既に持ち合わせている前提として、さらに私はエロスを求めているのだ。
私の相棒はまさにそれを体現する銃であり、精度と心地よいグリップ感、女性的な色気の全てを持ち合わせている。
退役してからも様々な銃に触れる機会があったがしかし、いずれも琴線に触れるものではなかった。
現代的なマッシブなボディの銃も悪いとは言わないが、色気というには少々足りないものがある。
現役当時に使っていた相棒こそ、使い心地からデザインまで、私の心を掴んで離さなかったのだ。
同じく風穴が開くのであれば、艶のあるものに開けられるほうが良い。
女性に迫られるのであれば、より艶やかなほうがいいに決まっている。
その想いを曲げることなく、この「ゴールド・エンブレム」を携えて今夜もまた狩りに出かける。
目的地は山を超えた遥か向こうだ。そちら側へ行くのは久々だ、帰りにモデナ産のワインでも買って帰ろう。
そのためには相棒、SIG P210に一仕事してもらはなくては…
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