[殺し屋っぽい] Gun & Story コンクール

ストーリー No.09

タイトル:Rake

投稿者:1986

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ストーリー:

 古い映画の影響か、女子供は殺さない主義の殺し屋がいる。しかし、どうしても女子供を殺す必要がある場合、そういった残り物は、主義を持たない殺し屋の所へ流れる。前者が自身の主義を貫いて眠りにつく頃、後者が残り物に銃口を向け、引き金を引く。
 おれは後者の中でも、ベテランに分類されていた。やってくる依頼の大半は、仲介業者に中抜きされた、末端の殺し。当然、一流の殺しにはならない。標的も、額にぽつりと黒い穴が開いた、眠るような死に顔とはいかない。最期の瞬間に顔を庇うか、命乞いをして手を差し出すから、大抵、どちらかの手がばらばらに吹き飛ぶ。おれはほとんどの標的を、本人の住む家の前で殺した。
 去年、そんな物騒な稼業からようやく引退したおれは、遠く離れた町に引っ越した。自動車整備工の仕事にありついて、もうすぐ一年になる。ベッドとテーブルがあるだけの自分の城は、ネオンで彩られた繁華街の裏に建つ、ボロアパート。夜になると、窓から差し込む光で部屋がピンク色に染まる。どうにか生活はできるが、余裕は全くない。それでも、褒められることがおおよそ一つもないこの町を選んだのは、三年前に引退した先輩が、『行くならここだな』と言って、地図で見せてくれた場所だから。そんな先輩は餞別代わりに、私用の四五口径をおれに託した。コルト純正のシリーズ八〇。先輩は、ガラクタ同然だった中古品を、現代の銃撃戦で通用するレベルにまで改造した。おれは、その四五口径を受け取って以来、毎日のように整備している。余計な持ち物は増やしたくないが、先輩からの贈り物となると事情は別だった。
 おれが唯一、自分の意志で手に入れたのは、『退職金』で買った速い車。今日の昼、パーツショップで買い物を終えて、トランクに紙袋を入れようとしていたとき、小さな子供が駆け寄ってきて、興味深そうに車体を眺めたり、底を覗き込んだりし始めた。おれが好きにさせていると、姉らしい少女が追いついて、おれにひとしきり謝ったあと、弟の手を引いて立ち去った。おれは、そんなに怖い顔をしていただろうか。
 誰が両親かも分からないような、ならず者の集団に育てられたおれは、早い内から、組織の悪趣味なお遊びに巻き込まれた。ルールは単純明快。残り物である『女子供』を殺すのは、あくまで『女子供』。人生の残り時間が数秒に迫った標的も、自分に近づいてくる殺し屋が子供なら、目の前に銃口が現れるまで、何も疑わない。おれが最初の仕事をこなしたのは、十歳のときだった。二二口径を用意されたが、先輩の四五口径を借りた。それから引退までは、扱いの楽な二二口径で仕事を続けた。
 おれは今年、二十歳になる。
 現役時代、どうして標的に会った瞬間引き金を引かず、自宅まで尾行したのか。おれはその理由をよく聞かれた。それは、標的が安心できる場所で、無防備に振舞っている方が都合がいいから。おれは、人を平気で殺せる割に、気の弱い子供だった。その分、人一倍神経質で、細かなことにも気がついた。そんな性格が、おれを生かしてきたとも言える。そのはずが、一体いつから、これほどまでに勘が鈍ったんだろう。つい数分前、ジャッキで車を持ち上げたときに、底に発信機がくっついているのが見えるまで、何も気づかなかった。あのときしっかりと目を見ていれば、その場で分かったはずなのだ。子供の目は、嘘が下手だ。笑っていても、標的が死んだ後の姿を見透かしている。自分が殺しから解放される日を、待ち焦がれている。
 かつてのおれがそうだったように。
 姉が気を引く間に、弟が車の下に発信機を取り付ける。標的を視認して引き金を引くのは、おそらく姉の方だろう。おれは、命のほとんどをあの駐車場で売り渡していた。同時に確信した。引退というのは、殺し屋だった人間に、狩られる隙を作るための方便なのだと。それが事実なら、先輩はこの世にいない。
 あの二人は、駐車場でいきなり頭を吹き飛ばそうとしなかった。おれと同じように、気が弱いのだろう。夜まで待って、こちらが気を抜いている瞬間を狙うだろうが、同じことをやって生き延びてきたおれも、七発でどう先手を打つか、その可能性に頭を巡らせている。そんな中、どうしても割り込んできて、頭から離れようとしないこと。
 引き金に指をかけるタイミングが一瞬でも狂えば、こちらの負け。ここで終わりたくないなら、自分が生き残ることを確信して、勝たなければならない。そう頭で理解していても、人差し指は?
 おれは、引き金を引けるのだろうか。
『女子供』相手に。

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2019/09/07

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