CO2ガスガン、CO2パワーソースの現状

現在、日本のトイガン業界ではCO2(炭酸ガス)をパワーソースとすることに意見が分かれています。
それは過去にあった業界メーカーやメディアを巻き込んだ大騒動がその一つの要因とも言われています。
今回はCO2をトイガンのパワーソースにすることの問題を巡ったこれまでの経緯や現在の状況を述べてみたいと思います。

グリーンガスの登場 1990年

1985年に低圧ガスのフロン12ガスを使用したガスガンが登場すると、トイガン業界はより安定したパワーソースの模索を始めます。その一つの方向性が圧縮したCO2(炭酸ガス)を利用する方法です。日本国内では高圧ガス取締法(現在は高圧ガス保安法)適用外の内容積100ml以下のCO2カートリッジが、当時主流だった外部ソース式ガスガンに利用できるのではと注目されました。

グリーンガスの1990年時広告

まだフィールドに電動ガンの姿が無かったガスガン全盛の1990年暮れ、ASGK(日本遊戯銃協同組合)の認可を得て新たなガスガン用外部パワーソースとして登場したのが炭酸ガス(CO2)を利用した「グリーンガス」システムでした。それまでフルオート・ガスガンはブースターシステムというフロンガス缶をいくつも連結したものか、巨大なエアータンクにコンプレッサーやポンプで圧縮空気を詰めて撃つのが主流だった時代です。なにより、当時ガスガン用に販売されていたフロンガス12(CFC-R12)はオゾン層破壊物質で、CO2の数千倍とも言われる温室効果ガスでした。

対してグリーンガスのCO2は温暖化係数がフロン12よりはるかに小さい環境性能はもとより、74gの小型のカートリッジをレギュレーター(減圧器)にセットする取り回しの良さ、フロンに比べて連射時や低気温下での作動性の良さなど、業界の期待を一身に背負っているかのように見えました。

業界内でCO2反対の動き、分裂

雑誌特集

ところが、トイガン・ミリタリー専門誌アームズマガジンで1991年8月号から半年以上にわたり連載された特集では、「地球温暖化に悪影響であるCO2は実銃にも使用される高圧ガスであり、レギュレーターの改造防止策などの安全構造にも問題がある。エアソフトガン規制の引き金になりかねない。」とASGKに対して提言し、CO2パワーソースに対する業界内の意見が割れたのです。

その後ASGKはJASG(日本エアースポーツガン振興協同組合)とSTGA(全日本トイガン安全協会)という団体に分裂、その一因はこのCO2の是非、威力基準値問題ともいわれています。

業界団体の分裂後、当初はSTGAのみがCO2ガスガンを推進する立場を取っていましたが、2020年10月にはJASGもCO2ガスガンの認証を開始しました。
STGA、JASGともに安全性への対処、第三者機関の試験評価を行なった上で、製品の認定を与えていて、マルシン工業をはじめ、カーボネイト(ハッチ)、タニオコバ、バトンTrading、ライラクスといったメーカー及び輸入代理店による認定製品も増え始めています。

違法改造CO2ガスガンによる殺傷事件→改正銃刀法へ

そういった一方で、業界団体に加盟しない、いわゆるアウトサイダーと呼ばれるメーカー製の高威力ガスガンや、一部のショップが販売した改造パーツによって高圧で撃てるように改造されたCO2ガスガンを使用した強盗殺人事件、発砲事件が立て続けに発生し、それらが要因となって、2006年に銃刀法が改正され、エアガンの威力規制が行われたということも忘れてはなりません。

CO2カートリッジは高圧であるがゆえに取り扱いを間違えると大変危険なものであり、慎重な対応を求められるということは業界内でも共通認識であると言えるでしょう。
ユーザーが簡単に威力をアップできてしまうような構造や、パワーアップを助長するカスタムパーツの氾濫は最も大きな問題点と言えます。

経産省は各業界団体にCO2ガスガンに関する通達を出していて、そこでは銃刀法や武器製造法に違反しないよう、CO2パワーソースに関する改造パーツ等の製造には十分注意するようにと記載されてきました。
ただ2019年より、業界団体からの要請により本文書のCO2に関する部分が削除され、違法パワーアップ改造に関する内容に変わりました。CO2が極悪パワーアップの代名詞のように扱われていた時代から少しずつ変化が訪れているのかもしれません。
>経済産業省からの要請文書

グリーンガスレギュレーター サンプロジェクト製

現在では、リキッドチャージ式ガスはフロン12から、オゾン層を破壊しない代替フロンのHFC134aやHFC152aとなりました。それでも地球温暖化係数(GWP)はCO2に比べると1430倍、124倍という値です。
グリーンガスは安全対策がより高められ、現在も販売されていますが、多くのサバゲフィールドでは外部パワーソースの使用に制限があり、一部のシューティングマッチで使用できる程度です。これはやはり改正銃刀法以前の極悪パワーガスガン時代の後遺症とも言えるでしょう。
ただ、現在のCO2ガスガンは小型カートリッジをマガジンや本体内にセットする仕組みが主流で、STGAの認定製品が使用できるフィールドも増えつつあります。

CO2カートリッジ マルシン製

CO2ガスガンはカートリッジを一度セットしたら使い切らなくてはいけない、1発当たりの発射コストがHFC134aに比べてまだ高い、高圧なので保管や廃棄方法にも気を遣う、というデメリットもありますが、低気温下での作動安定性や、迫力のブローバックは代替フロンには得難いものがあります。
リキッドチャージ式のガスに全てが置き換わるものでありませんが、その一部を担えるパワーソースと言えます。

代替フロンの削減、価格高騰

現在、リキッドチャージ用に使われる代替フロンガスのHFC134aやHFC152aの削減が進み、価格が値上がりしており、そのコストメリットは徐々に失われています。東京マルイが2017年10月に発売した環境影響度の低いノンフロン・ガンパワー(HFO1234ze + LPG)のGWPは1とCO2と同等レベルですが、コスパ、作動圧、可燃性などの理由から、まだまだ普及しているとは言えません。
ただ、現在CO2を推進していない各トイガンメーカー、業界団体も、CO2の研究開発や協会内での調整を進めているという噂も聞きます。

一方で世界のエアソフト市場ではCO2カートリッジ内蔵タイプのガスガンが続々と発売されていて、それら一部は既に国内でも流通しています。そして今後日本への輸入量はさらに増加するでしょう。経緯を知らない事業者が海外製のCO2ガスガンを日本に輸入することを危惧する関係者もいます。これら海外製CO2ガスガンのマガジンは日本製ガスガンと互換性があるものが多く、違法なパワーアップや、破損による事故につながる可能性もあります。

また圧縮された液化CO2ガスをレギュレーターを使用せずに、直接リキッドチャージ式のマガジンに注入するためのアダプターをネット販売している業者や個人もあり、これらも違法なパワーアップや破裂事故につながるものとして懸念されています。

だからこそ、再び事件が起こってCO2が規制される前に、また、代替フロンが全廃になってマーケットから姿を消す前に、国内のトイガン業界内でこのCO2パワーソースに関する共通の安全規格やルール作り、監督官庁との調整、アウトサイダーを作らないために団体への加盟を積極的に呼びかけるなど、諸問題が早急に解決することを願います。

注:海外製のガスガン用GREEN GASと呼ばれるガスはリキッドチャージ用で、その成分はC3H8(プロパン)、C4H10(ブタン)などの可燃性混合ガスとなり、日本国内のCO2のグリーンガスとは異なるものです。圧力は数種類あり、一般的なものは気温25度で12kg/cm2程度と日本国内の高圧ガス保安法が適用されます。またこれらGREEN GASを使用して威力が0.98Jを越えれば銃刀法違反となります。くれぐれも混同、誤用にはご注意ください。

本記事はピースコンバット2020年3月号に掲載の道楽LIFEコラムをもとに、再編集して掲載したものです。



[参考] 日本のトイガン業界団体と主な加盟メーカー&ショップ (順不同)
ASGK (日本遊戯銃協同組合) 1986年発足
 東京マルイ
 ウエスタン・アームズ
 タナカ
 クラウンモデル
 KTW
 ヨシトモ (TOP JAPAN)
 ハートフォード
 アップル (CAW)
 青島文化教材社
 ケイエム企画

※日本遊戯銃協同組合の前身である「エアソフトガン協議会(ASGK)」は1981年6月1日発足。自主規制要領の制定は1981年7月3日。

JASG (日本エアースポーツガン振興協同組合) 1999年発足
 マルゼン
 ケーエスシー
 サンプロジェクト
 日本技巧
 ライラクス
 バトンTrading

STGA (全日本トイガン安全協会) 2007年発足
 マルシン工業
 タニオ・コバ
 エスツーエス
 ハッチ
 ツーコースト
 名古屋ガンショップ
 セキトー
 七洋交産
 他 小売業者

2020/01/30


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