東京マルイ H&K P7M13 【ハイグレード/ホップアップ】
レポート:石井 健夫
H&K P7は数々の独自機構を採用している事で知られるユニークな拳銃だ。ドイツの大手銃器メーカー、H&K(ヘックラー・ウント・コッホ)社が1970年代に開発。1976年には西ドイツ警察が制式拳銃「PSP(=Polizei Selbstlade Pistole)」として採用した。
作動方式には発砲の際に生じる高圧ガスをバレル基部に設けられた導入孔からシリンダー内に取り入れ、弾丸が銃口から完全に飛び出し銃身内の圧力が低下するまでピストンを抑え付けスライドの後退を防ぐ「ガスディレード(=ガス圧利用遅延)式ブローバック」を採用。この方式だとバレルとフレームを完全に固定でき高い命中精度が期待できるのだ。
また携帯時にはストライカーが完全に降りた極めて安全な状態でありながら、発砲時にはグリップを握り込む動作でコッキングが完了し、初弾を軽いトリガープルで発射できる撃発メカニズム「スクイズコッカー」はユニークかつ革新的だ。
その個性的な外観から小説や映画、アニメへの登場も意外に多いP7M13。特に有名なのは『ダイハード』1作目(1988年)の悪役=ハンス・グルーバーが使ったオールシルバーの銃だろうか。
初期モデル「P7」では発射ガスが流れ込むシリンダーが過熱する事によってトリガー付近が火傷を負うほどに熱くなってしまうという問題が生じ、改良型の「P7M8」からはそれを解消するための樹脂製カバーが取り付けられた。またP7もP7M8もシングルスタックの8連発マガジンだったが、これを装弾数13発のダブルカァラムマガジン仕様に改め多弾数化を図ったモデルが「P7M13」である。
元々P7シリーズには撃発機構のほぼ全てを左側のグリップ内にまとめる事でメンテナンス性を高めようとするコンセプトもあり、P7M8でさえ通常の拳銃よりグリップはブ厚く大きめだ。より幅広なP7M13では「多くの人の手で限界を超えてしまう」と指摘する人も多い。
この東京マルイ製品以前にエアソフトガンとしてモデルアップされたH&K P7M13にはマルゼン製のカート式コッキングエアーガンと、MGC製ガスブローバックがある。筆者はMGC製を所有していた事があり、ナントそれは実銃より更にグリップが大きかった。「ガス効率を高めるためマガジンを大きくしたかった」とか、「単純に設計ミス」等この件には諸説あった訳だが、とにかくこのMGC製は撃って遊ぶ気にとてもなれず、数年後にはコレクターの友人に譲ってしまった。
最後発となった東京マルイがこのコッキングエアーハンドガンを製作するにあたっては外観の再現度に関してMGC製を圧倒的に凌駕する事を目標に「史上最高にスタイリッシュなP7M13」を作ろうとしたのではないだろうか? 左右合わせモナカ構造である事を示す2箇所のネジすらもデザインの中に違和感なく溶け込んでいる。
シリーズ共通、「横290 x 縦180 x 厚さ50 mm」のパッケージ。P7M13ではオーソドックスな横型。銃の背後に写っているのは救急救命士(EMT=Emergency Medical Technician)のバッジだが、H&K P7M13との関連性については現在のところ不明。
そのままウィンドウ・ディスプレイに使用できるよう美しくレイアウトされた内箱はこのシリーズの特色だ。P7M13は「銃の全長よりも全高の方が長い」という特殊なフォルムなので、付属品やマガジンの配置やバランスにも特に細心の注意が払われている。
筆者には実銃の「P7M8」を自分専用として海外の射撃場に預け、かなり本気で撃ち込んだ経験がある。スクイズコッカーによる初弾の爽やかで切れ味鋭いトリガープルと「ガスディレード・ブローバック=固定バレル」がもたらす素直な反動の効果か、遠くの小さな標的に対してさえ命中率は高く感心したものだ。
因みにP7M8はシングルスタックなのでダブルカァラムのP7M13よりもグリップが薄くて良いカナ? と思ったものの、実際はさほど薄くなく「ならばやっぱりP7M13にすれば良かったな…」とやや後悔したりもした。ともあれ実銃への愛着も深い筆者にとって、この東京マルイH&K P7M13はプライベートでも愛用する「お気に入りの1挺」だ。
1970年代ドイツ工業を象徴するかのようにメカメカしく、しかし洗練されたラインを魅せる銃口部分。実銃では硬度の違う鋼鉄や軽合金そして樹脂と、複数の素材が組み合わさってこの独特な外観を構成しているが、東京マルイはABS樹脂だけでそのアンサンブルを表現している。
HKロゴやシリアルNo.、さらに細かなプルーフマークに至るまで丁寧に再現された刻印も見応えがある。必要充分な長さを確保するためかアウターバレルの銃口ギリギリまで来ているインナーバレルは真鍮製。
グリップ前部は「スクイズコッカー」といい、実銃では“カチッ!”と握り込む事によってストライカーがコッキングされ、初弾を極めて軽くスムーズなトリガープルで発射できるのだ。このコッキングエアーガンではグリップセィフティの機能を果たしており、「握り込まないと撃てない」という点では実銃と同じだ。
「LYMANトリガープルゲージ」による実測値は1.4kg前後で、“パキン!“と爽やかに落ちる感触が実銃と非常に近い、と思った。マガジンキャッチは左右の手を選ばず使用できるパドル式だが、USPとは異なる構造なので指の付け根は痛くならない。
P7M13は一体成形スライドではないのだが、左右パーツの合わせ目の処理がじつに巧みなのでよく目を凝らさないとそう見えないのが凄い。フロントサイト、リアサイト、エクストラクター等も、モールド表現とは思えない程のリアリティだ。そしてスライド上部はサンドブラスト風の艶消し、側面には細かなヘアライン、そして後部の指掛け部分には機械加工の跡まで、凝りに凝った精緻な仕上がりは溜め息モノ。
シリーズとしては初期の設計であるP7M13のコッキングはストローク24mmの1段引きだ。エジェクションポートが開かないのはやや淋しいが、しかしこのストロークの短さは実用上むしろ有利に働く。真横から見ると細いスライドだが幅は意外に広く、また邪魔な突起もなく、滑り止めの形状パターンも適切なのでしっかり掴み易く、素早いコッキングや連射が可能。短い全長による携帯性の良さも勘案すると、サバイバルゲームでの使い勝手はシリーズNo.1なのではないだろうか?
実銃同様コッキング状態ではスライド後部からインジケーターが突き出し、「トリガーを引けば発砲できる状態」にある事を射手に知らせる。また実銃ではスライドを外す際のロックになっている丸いボタンにマニュアルセィフティの機能があり、前方に1mmほど動かすと“カチッ!”と鳴ってトリガーが引けなくなる。
リアサイト、フロントサイトとも小振りだが角がクッキリ立ち、さらにアンダーカット形状なのでどんな光条件でも真っ黒に際立って見えるので狙い易い。狙点と着弾点もほぼ一致しており、0.25gBB弾ならばほぼストレート弾道で、0.20gBB弾では程よいHOP弾道で、30m先ならA3紙サイズ、40m先なら上半身サイズの標的に、面白いように命中させる事ができる。因みに実銃にはホワイトの3ダットがあるが、この銃では再現されていない。
コッキングガンならではの事情で上部がかなり絞られてはいるが、ほぼフルサイズのマガジン。装弾数は22発となっている。非常に複雑なプレス加工で製造されているという実物の形状が、高度な金型技術で表現されている。グリップ底部にはランヤードリングも確認できる。樹脂製パーツなのであまり無理な使い方はできないと思うが、この銃の自重「327g」に対する強度としてはこれで充分な気もする。
スペック
全長 | 173mm |
重量 | 327g (実測値) |
装弾数 | 22発 |
価格 | 3,500円(税別) |
発売日 | 1997年3月21日 |
発射方式 | スプリングエアー・ハンドコッキング、ホップアップシステム搭載 |
初速 | 最高:62.1m/s 平均:61.42m/s 最低:60.6m/s ジュール:0.377J |
※東京マルイ ベアリングバイオBB弾 0.2g使用、固定ホップアップ、室内10発での測定、気温19度、湿度56%、ACETECH AC5000にて測定。
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