タニオコバ USP 40 タクティカルSD
写真&解説 小堀ダイスケ
解説
今回紹介するH&K USP(以下USP)は、タニオコバのデビュー作となった記念すべきエアガンだ。タニオコバとは、トイガン界のレジェンド、小林太三氏が立ち上げたメーカーである、というのはもはや語るまでもないだろう。
小林さんはMGC時代から、モデルガン、エアガンを問わず、独自のアイデアによるメカニズムを数多く開発してきた。その小林さんが自身のブランドで作るガスブローバックガンともなれば、話題沸騰は確実だ。さらに、当時最新型だったUSPの初モデルアップということもあり、ガンファンの期待は高まるばかり。
鳴り物入りで発売されたUSPには新アイデアが満載で、特にユニークだったのがマガジンだ。透明な樹脂によるシースルー構造でタンク内のガス残量が一目瞭然という、まさにタニコバイズムの象徴ともいえるパーツだった。だが、樹脂製というのが災いし、残念ながら冷えにはめっぽう弱かった。
もちろん、ブローバックエンジンは快調そのもので、反動も強烈。撃ち味こだわるタニオコバらしい実射性能だっただけに、この欠陥は致命的で、結果的に金属製マガジンに改良された。やはりユーザーは個性的であることよりも、安定した撃ちやすさをエアガンにもとめるものだ。
さて、タニオコバのガスブローバックガンを語る上で、WAとの訴訟問題を避けては通れないだろう。事件の詳細は様々な形で見ることができるため、ここでは深く言及しない。ただ、ボクがいちガンファンとして感じるのは、WAはモデルガン時代から他社の特許を遵守するメーカーだった、ということだ。デトネーターブローバックのモデルガンを発売する際も、MGCの特許をちゃんと正式に使用していたし、その時代のMGCとWAが握手をしているロゴマークをボクは今でも覚えている。それなのに、他社が勝手にマグナブローバックの模倣をしたとなれば、自社の権利を守ろうとするのは当然であり、そこは理解はできる。しかし、裁判の結果は一部のメーカーが敗訴しただけで、タニオコバのUSP(および他メーカーの製品)はマグナの模倣ではない、と司法が判断したわけだ。
今回の個体は2006年に製造されたリニューアル版。裁判中、販売できなかった間に、各部を改良しつくしたファイナルバージョンともいえる1丁だ。そのため、後発のタナカ製マグナブローバックモデルのP8と比べても、勝るとも劣らないを高性能を誇っている。
しかし、タニオコバのUSPにはただ1点、どうしてもタナカP8に勝てない弱点があった。それは全体的に若干小さく、フルサイズではない、ということだ。これは、採寸用に実物大との触れ込みで入手したブルーガン(実物を型取りし樹脂で複製された無可動キャストモデル)が、素材の収縮によりごくわずかだが縮小していたからだといわれている。つまりタニオコバの責任ではないのだが、結果的にそれがイメージダウンにつながってしまったのは事実だ。
マグナブローバックを開発したWAしかり、本邦初のUSPをモデルアップしたタニオコバしかり、いつの世もパイオニアというのは追随者に辛酸を舐めさせられる、というのがセオリーなのだろうか。だとしても、WAやタニオコバが業界にあたえた影響に変わりはないし、このUSPが今なお魅力にあふれたエアガンであることも間違いないのである。
当時、最新型のオートマチックピストルだったH&K USPを、タニオコバはトイガンとしてはじめてモデルアップした。この個体はWAとの裁判が終わった後、各部が改良された上で再販された40タクティカルSDだ。塗装ではなく成形色で再現されたODカラーのフレームと、アルミ製のサプレッサーがひときわ異色を放っている。
スライドは"フェイクメタル"と呼ばれるHW樹脂。アウターバレルはアルミ製で、先端にネジが切られたスレッデッドバレル。ツイストバレル採用のインナーバレルにはブラックメッキが施されている。可変ホップアップも装備。
リアサイトはフルアジャスタブル。MGC時代からアジャスタブルサイトを何度も作ってきたきた小林さんの設計だけに、各部の動きもシャキッと正確で気持ちがいい。
フレームにはフラッシュライトなどを装着するためのマウントレイルアダプターが装備されている。
アルミ製のサプレッサー。ソーコムタイプのような仰々しさがなく、太さや長さがちょうど良いバランスだ。内部にはコイルばねでスポンジが固定されている。
1996年発売のタフネス・グレードではHD/Sナイロン製アウターケースとなり、2006年のリニューアル版では亜鉛ダイキャスト製のマガジンとなった。本文中にもある通り、初期型は透明で中身の液化ガスが見えるというユニークな構造だったが、やはり金属製の方があらゆる点で優っている。
ダンボール製のシンプルなパッケージ。別売のサプレッサーの箱にはブローバックサイレンサーと書いてある。消音効果だけではなく、作動性能も考慮した設計ということだろう。
マニュアルの最初に、製造中止中の10年間で見つかった改良点についての記述がある。改良パーツが旧モデルとの互換性を重要視していることなど、小林さんならではの気配りが感じられる。
マニュアル.PDF (12.3MB)
DATA
発売年 | 1995年春 (初期型) 1995年秋 (HW) 1996年秋 (タフネス・グレード) 2006年6月 (40 TACTICAL SD) |
発売時価格 | ¥15,800 (初期型) ¥17,800 (HW) ¥17,600 (ノーマル タフネス・グレード) ¥19,100 (HWスライド タフネス・グレード) ¥20,600 (HW&ユニバーサルサイト付 タフネス・グレード) ¥18,000 (40 TACTICAL SD) ¥5,000 (ブローバックサイレンサー) |
全長 | 実測 209mm / 348mm (サイレンサー装着時) |
重量 | 実測 932g / 1,005g (サイレンサー装着時) |
バレル長 | -mm |
発射方式 | リキッドチャージ式ガスブローバック |
使用弾 | 6mmBB弾 |
装弾数 | 20発 |
平均初速 | 67.5m/s |
撮影協力:サタデーナイトスペシャル
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