9mm機関拳銃
本記事は自衛隊の専門誌「スピアヘッド」No.13(2012年8月号)に掲載の特集記事です。
文: YAS / 写真: アルゴノート社
9mm機関拳銃は陸上自衛隊が採用する銃器だ。略称はM9(エムナイン)。1999年に陸上自衛隊に制式採用され、全長339mm、銃身長120mm、ライフリングは6条右回り、重量2.8kg、弾薬は9mm普通弾(いわゆる9mm×19パラベラム弾)を使用し、弾倉の装弾数は25発となっている。
機関拳銃という名称はマシンピストルと訳されるが拳銃をベースにしたものではなく、実際には短機関銃、いわゆるサブマシンガンの部類に属する。
左: 9mm機関拳銃を胸に下げた第1空挺団の1等陸尉。空挺団の幹部クラスは本銃を運用している。
導入に至った経緯と開発経過
9mm機関拳銃は長野県に本社を置くミネベア株式会社が開発を担当した。東京都大田区の大森工場にて製造される。ミネベア社の前身は新中央工業で、さらに遡れば有名な銃器設計者である南部麒次郎が戦前に経営をしていた中央工業に行き着く。ミネベア社と言えば同じく自衛隊で採用される9mm拳銃(シグザウエル P220)のライセンス生産や、警察向けのニュー南部M60などリボルバー式拳銃の製造も手がける。
上: 宇都宮駐屯地記念行事で装備品展示されていた第12特科隊の9mm機関拳銃。
指揮官や後方部隊の使用する9mm拳銃の後継モデルとして、また陸上自衛隊では戦後、米軍から供与された11.4mm短機関銃M3A1、いわゆるグリースガンを長らく使用しており、9mm機関拳銃はこの代替する装備として開発が進められた。しかしながら、このM3A1の後継モデルは9mm機関拳銃が初めてではない。
上: 板妻駐屯地記念館に展示されている短機関銃M3A1。
1965年に新中央工業(現ミネベア)が防衛庁の依頼で試作したニュー南部M66サブマシンガンが戦後初の国産サブマシンガンであり、ニュー南部M66は米国のS&W M76に似たスタイルの大型サブマシンガンだった。
しかし、このモデルは各国軍隊での主力火器がアサルトライフルに移行、軍用でのサブマシンガンの利用価値が薄れてきたという時代的背景もあり、結局採用されずに試作のみに終わってしまう。
そして1990年代、再び国産サブマシンガンの開発が進められた。
後方部隊や戦車などの車両搭乗員、対戦車部隊の自衛用火器として、M3A1と1982年に採用された9mm拳銃の後継モデルという位置付けとされたが、近年、市街地戦闘での拳銃の利用価値が再認識されたこともあり、9mm拳銃は現在もなお使用され続けている。
上: 武器学校に展示されている試作型。グリップや切替表示などが生産型とは異なっている。
この9mm機関拳銃という名称は各国で言うところのマシンピストルを意味する。厳密に言うならばマシンピストルはセミオート射撃可能な拳銃をフルオートでも射撃できる様にした拳銃ベースのものを指す。たとえばソ連のスチェッキン、オーストリアのグロック18CやイタリアのベレッタM93Rなどがこれに当たる。
9mm機関拳銃は諸外国のモデルで言えばイスラエルのミニUZIや、米国のMAC10といったモデルに近く、これらはいずれも小型のサブマシンガンに分類される。
構造
9mm機関拳銃はセミオート、フルオート射撃を切替えることができ、グリップ左側面にスライド式のセレクターレバーがある。セレクターポジションは後ろからア(安全)、タ(単発)、レ(連発)となっており、”アタレ”という自衛隊流のジンクスを含んでいる。
このセレクターの切り替え操作はかなり固く、セフティポジションから上へ持ち上げる様に切替えるというちょっとしたコツがいるので、あまり操作性が良いものではない。
レシーバー左側面には白文字で9mm機関けん銃、桜のマーク、Gから始まる4桁のシリアルナンバー、ミネベア社の製造を示すNMBの表記、2001.03といった納入年月を表す刻印がある。
またレシーバー左側面とレシーバーエンドにはスリングフックがあり、これに2点式のスリングを取り付けて運用する。
本体はメインレシーバーとグリップフレームの2ピース構造で、いずれもアルミ削り出し部品を使用している。各国のサブマシンガンが生産性を高めるためレシーバーにスチールプレス加工を採用することが多い中で、削り出し加工を採用するサブマシンガンは珍しい。
グリップフレームには後部と左側面を覆う様に一体型樹脂製のグリップパネルが取り付けられている。右側面は金属のフレームがむき出しで、実際に握ってみるとかなり太く角張っており、お世辞にも握りやすいグリップとは言えない。
レシーバー上面はスチールプレス製のレシーバーカバーで覆われており、フロントサイトの後ろに大きめのコッキングレバーを備える。これを後方へ引くことでボルトが後退・停止し、射撃準備が完了する。
フロントサイト、リアサイトはともに固定式で調節機構はない。
内部構造はL型ボルトを使用したオープンボルト発火方式で、作動は撃発時のガス圧を利用した単純拭き戻し式のシンプルブローバックを採用する。
L型ボルトは従来のサブマシンガンに比べて銃身を包み込む様な形でボルトが配置され、より銃の全長を短く出来るというメリットがある。
また前述したUZIサブマシンガンにもみられるオープンボルト方式はボルトを後退した状態で停止させ、トリガーを引くとシアが落ちボルトが前進、ボルトは前進しながら弾薬をすくい上げてチャンバーに装填し、ボルトの閉鎖と同時に撃発させるという仕組みである。
一般的にオープンボルト方式は、連射時の放熱性能に優れる反面、トリガーを引いた後の作動とボルトの重量移動からクローズボルト方式のモデルに比べて命中精度が劣るとされている。
とくに9mm機関拳銃のようなグリップ内にマガジンを装着するT字スタイルのサブマシンガンの場合、重量のあるボルトが射撃するたびに前後することによってグリップを中心にシーソーの様に上下に振られるデメリットがある。
この反動を制御するために9mm機関拳銃では本体前部にバーティカルフォアグリップが装備される。さらにレシーバーから突き出た長いフラッシュハイダーにより、射撃時の上方への跳ね上がりを抑制する機構も備える。
9mm機関拳銃の重量は2.8kgであり、諸外国の類似モデルと同程度の重量であるが、実際に手にしてみると、拳銃という名称とそのコンパクトな外観からは想像できないほどの重さを感じる。
ただし、9mm×19拳銃弾のセミオート射撃であれば、ある程度の反動はその重量によって相殺されるので一概に重量がデメリットとは言えないだろう。
しかしボルトが激しく前後するフルオート射撃時となると、毎分1,100発を超える高回転の発射速度により、射撃コントロールは相当な熟練を要するはずだ。フルオート射撃では25発を約1.3秒で撃ち尽くすことになる。
上記の理由から有効射程は9mm拳銃と大差なく、おそらく40~50メートルが対人戦闘における効果範囲だと思われる。
9mm機関拳銃には射撃を安定させるためのストックがなく、この点においても命中率を犠牲にしていると言える。折りたたみ式の簡易なストックでも肩および、両手で銃を固定できれば安定した射撃が可能になる。
ストックがない理由としてはPKOの自衛隊海外派遣時において拳銃のカテゴリに属させるためだったという話も聞くがその真偽は定かではない。
装弾数が25発というのも30発装弾可能なミニUZIやMAC10に比べるとやや心許ない数字となっているが、ロングマガジン化による取り回しなどを考えると必ずしも短所とは言えない。
調達数及び配備部隊
9mm機関拳銃は1999年(平成11年)より5年間に渡って陸上自衛隊に調達、平成11年度に70丁、12年度に100丁、13年度に13丁、14年度に56丁、15年度に27丁、合計266丁が調達された。それ以降は調達されておらず、89式小銃はおろか、9mm拳銃に比べても非常に少ない配備数といえる。
この5年間での平均調達価格は1丁あたり約38万円となっている。
参考として米国での市販価格ではあるが、ミニUZIが約900ドル、スイスB&T社のMP9でも1,800ドル、日本警察が採用するMP5でも1丁25万円程度の調達価格なのでかなり割高な印象である。この割高感は調達数の少なさも影響していると思われる。
9mm機関拳銃は千葉県に所在する習志野駐屯地の第1空挺団の対戦車部隊、群馬県相馬原駐屯地の第12旅団の対戦車中隊、西部方面隊の指揮官などに配備される。
空挺団では87式対戦車誘導弾や01式軽対戦車誘導弾の射手がセカンダリウエポンとして使用しているシーンを見ることが出来る。また中央観閲式や相馬原の各駐屯地祭などでも数少ない9mm機関拳銃が一般に展示される。
開発当初に計画していた戦車搭乗員向けの自衛用火器には配備されずに調達を終えており、代わりに現在では89式の折曲銃床式が配備されている。
また9mm機関拳銃は陸上自衛隊だけではなく、航空自衛隊の基地警備教導隊や海上自衛隊にも配備されており、海自の平成24年調達予定品目にも加えられているなど現在も調達が続いている様だ。
各国の自衛火器事情
9mm機関拳銃は自衛用火器という目的で言うならば、いわゆるパーソナル・ディフェンス・ウエポン(PDW)というカテゴリに属す銃器に相当する。
現在各国が開発するPDWは、従来の9mm拳銃弾よりも強力な専用のボトルネック弾を使用し、有効射程距離とボディアーマーへの貫通性能を向上したものが主流となっている。
たとえばベルギーのFNハースタル社が開発したP90は5.7mm×28弾を使用したブルパップタイプの銃器でマガジン装弾数も50発と多い。
また、ドイツのH&K社が開発したMP7は4.6mm×30弾を使用する小口径かつ低反動のPDWで、重量約1.7kgと軽量、かつ光学照準器やウエポンライトを装着可能なピカティニーレールを標準装備する。
米国ナイツアーマメント社の開発したナイツPDWは6mm×35弾を使用し、M4カービンに似た操作性で兵士への教育負担も軽減できる。
特にP90やMP7は生産性が高く軽量な樹脂製レシーバーやストックを使用しているのも特徴だ。
こういった近年の各国PDW事情からすると、1951年に開発されたイスラエルのUZIサブマシンガンに強く影響された9mm機関拳銃は、やや時代遅れの銃器と言える。
しかしながら自衛隊で前述のPDWの様な独自の弾薬を開発・運用するというのはよほどの特殊用途でない限りはあまり現実的ではないだろう。
そういう意味では調達数が僅か300丁足らずの高価な銃器を独自に国産化するよりは、同じ9mm拳銃弾を使用するドイツH&K社のMP5Kや、スイスB&T社のMP9を輸入するといった方法でも十分だったのではないだろうか。
また平成23年度の調達予定項目ではH&K社製の新短機関銃という名称で技術調査用に調達されており、これらは特殊作戦群向けのUMPあるいはMP7だと噂されている。
スピアヘッド アルゴノート社発行。 月刊パンツァーという戦車雑誌の臨時増刊という扱いで、自衛隊を中心とした兵器雑誌。年4回発行の季刊誌で、今回で13号目となる。 特集は75式自走155mm榴弾砲、女性自衛官教育隊。カラーページは第6師団の創立50周年記念行事などの駐屯地祭が中心。 |
女性自衛官教育隊の特集記事。
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