富士総合火力演習は、静岡県の東富士演習場で開催される国内最大の陸上自衛隊の実弾射撃訓練。
今年は2012年は8月26日(日)に実施され、人員 約2,400名、戦車・装甲車 約80両、各種火砲 約80門、航空機 約30機、その他車両 約600両が参加する。
今回の目玉はなんと言っても10式戦車の移動射撃。また、今回初参加となる中距離多目的誘導弾にも注目が集まる。
26日の演習本番では防衛大臣の森本敏大臣も視察。
さて演習開始。従来の開始早々の空爆は無く、特科部隊が演習広場に集結するところから始まる。
これは陸上自衛隊最大の火砲、203mm自走りゅう弾砲。最大射程は通常弾で約23km。
99式自走155mmりゅう弾砲。最大射程は約30km。御殿場から小田原や熱海までを砲撃可能。
99式自走155mmりゅう弾砲が轟音を上げて射撃。自走できるので射撃準備が速い。
155mmりゅう弾砲 FH70も射撃。有効射程約24Km、西ドイツ、イタリア、イギリスの参加国によって開発されたものを日本製鋼所がライセンス生産している。
ちなみにこのFH70の減勢に対応するため、射撃・陣地変換の迅速化、戦略機動性の向上及びネットワーク化を図った火力戦闘車(装輪自走砲)の開発が進められている。
開発費の削減を図るため、99式自走155mmりゅう弾砲の砲部と重装輪回収車の車体部を活用する構想だ。
同時弾着をみせると、会場内に歓声が上がる。
21門すべての火砲による100分の1秒単位での精度が求められる、二段山、三段山上空に富士山を描く同時弾着を披露した。
120mm迫撃砲 RTの射撃シーン。矢印は発車直後の弾頭ではなくて、発射殻のような物。81mm迫撃砲 L16もとなりで射撃していた。
89式装甲戦闘車の79式対舟艇対戦車誘導弾発射装置、通称「重MAT」の射撃。これは赤外線による有線誘導方式。
そして今回の目玉のひとつ、中距離多目的誘導弾が進入してくる。まわりの諸先輩方が「中多、中多」と読んでいたので私のイメージ的には完全に「チュー太」。小さくても噛まれると手痛いネズミの印象である。
96式多目的誘導弾と違って、射撃管制用などの複数車両による運用ではなく、単独車両での運用が可能。
中多の射撃の瞬間。
誘導方式は赤外線画像 (IIR)及びセミアクティブ・レーザー・ホーミング (SALH)による第3世代方式とのこと。
UH-1ヘリコプターによる地雷散布。
上空からヘリで対戦車地雷を一挙に散布し、応急地雷原を構築、敵戦車の移動を妨害する。
対戦車地雷は敵戦車などの接触により、その圧力を感知して爆発する仕組み。
CH-47Jから隊員がファストロープで降下。
隊員達はその後橋を爆破(というテイ)し、 エクストラクションロープという特殊なロープを使って隊員を吊り下げ緊急脱出を図る。隊員はライフルを構え地上を警戒したまま。
軽装甲機動車のルーフから01式軽対戦車誘導弾(軽MAT)を射撃。まずは近距離目標に対して低伸弾道モードで射撃。この軽MATはバックブラストが少ないのが特徴。今年はダイブモードは発射せずに終わった。
続いて96式装輪装甲車が進入してくる。
96式装輪装甲車は乗員2名に加え、兵員8名を輸送でき、後部ハッチより兵員を展開させることが可能。全備重量約14.5t、全長6.84m、全幅2.48m、全高1.85m、最低地上高0.45m、登坂能力60%、最高速度100km/h、行動距離500km以上。
搭載された96式40mm自動てき弾銃を射撃。
この96式40mm自動てき弾銃は車内から射撃することもできる。機甲科用ヘルメットと無線機、防弾チョッキ2型を装備した車長がカッコイイ!!
その後96式装輪装甲車から隊員が展開、下車戦闘を行う。89式小銃および5.56mm機関銃 MINIMIにて二と型ターゲットを撃つ。曳光弾が着弾するとターゲットは激しく燃え上がる。
110mm個人携帯対戦車弾を構える隊員。その奥では84mm無反動砲を構えた隊員も。
84mm無反動砲から発射された対人用榴弾の空中爆発(上)と、発煙弾の着弾シーン。
89式装甲戦闘車。 愛称はライトタイガー。重量26.5t、全長6.8m、最高速度約70km/h、移動距離約400km、毎分550発発射可能なエリコン社ライセンス生産の90口径35mm機関砲KDE×1、74式車載7.62mm機関銃×1、79式対舟艇対戦車誘導弾発射装置、通称「重MAT」×2(砲塔両側面)、車体砲塔制作は三菱重工。
戦場で戦車に随伴しながら歩兵を輸送する目的の機械化戦闘歩兵車両だ。乗員3名に加え、兵員を7名輸送できる。
エリコン社の90口径35mm機関砲KDEの射撃。
AH-1Sコブラ対戦車ヘリコプターが飛来し、TOW対戦車ミサイルを射撃する。
陸自の最新攻撃ヘリ、AH-64Dアパッチロングボウ攻撃ヘリコプターも登場!! 機首下のM230 30mmチェーンガンを射撃した。このチェーンガンは発射速度は毎分625発。1200発の30mm機関砲弾を搭載する。
また、翼下にセミアクティブレーザー誘導方式のAGM-114 ヘルファイア対戦車ミサイルと、70mmロケット弾ランチャーポッドを搭載することができる。
戦車教導隊、第1中隊の74式戦車。74式戦車はその名のとおり1974年に制式となった。 乗員4名、重量約38t、全長9.41m、最高速度53km/h、行動距離約300km、105mm戦車砲×1、12.7mm M2機関銃×1、74式車載7.62mm機関銃×1、三菱重工製。
いずれは10式戦車に代替されるがまだ相当数の74式戦車が現役なので、すべてが退役するのはまだ当分先のことだろう。個人的にはこの避弾径始に優れた流線形状がセクシーで好きなんだけどなぁ。
ちなみに現在防衛省が研究開発中の機動戦闘車が2014年を目処に開発が終了する。これは96式装輪装甲車をベースとし、74式戦車と弾薬共有可能な105mm戦車砲を搭載、搭乗員4名、路上での高速機動性を重視し最高速度100km/h以上、空中輸送しやすい重量26トン以下の軽量な8輪装甲車となる予定。制式化すれば15式機動戦闘車、あるいは16式機動戦闘車と呼ばれるだろう。
日本版ストライカーMGSといった感じだ。
対空火力の87式自走高射機関砲。愛称は「スカイシューター」。ガンタンクとか87AWとも呼ばれる。1987年に制式化。高射特科部隊に装備され、主として機動的に運用される部隊の対空掩護に使用される。
87式自走高射機関砲が、ドカドカドカッと双連のスイスのエリコン社製35mm対空機関砲を撃つ。
さあ、本日の目玉!! 10式戦車が登場。一気に会場が沸き立つ。今回登場した4輌は戦車教導隊第1中隊所属。
車体番号は95-5290(偵察)、95-4616(偵察)、95-5038(射撃)、95-5065(射撃)。
まずは2輌の10式戦車が稜線沿いに敵陣を偵察。
そして別の2輌が演習広場に進入し、なんとスラローム走行をしながらの射撃を披露!!
これには観客からどよめきの声が上がる!!
10式戦車は射撃するとやや砲身を下げてすかさず方向を転換した。
そして44tの車体を軽々と翻して2発目を射撃。
その後直進し停車。そして後退しながら3発目を射撃。120mm砲から迫力の発砲炎が!
この一連の動作を2輌の10式戦車がよどみなく、シンクロして行った。
もちろん大御所の90式戦車も激しく火炎を噴き出して射撃していた。
大柄な印象の90式戦車の120mm滑腔砲による射撃は迫力がある。
そして空挺隊員が上空から落下傘で降りてきて前段演習が終了する。
後段演習は島嶼部に侵攻する敵部隊に対する防衛を強く意識した内容。島影が魚釣島に似てる?
まずは海上自衛隊のP-3C対潜哨戒機が上空に飛来。敵潜水艦および敵艦船の情報を収集する。
陸上自衛隊では88式地対艦誘導弾が展開される。略称はSSM-1、愛称はシーバスター。この誘導弾は発射されると地形を這う様に低空飛行して目標まで誘導される。
この88式地対艦誘導弾の後継として改良型の12式地対艦誘導弾の配備が予定されている。※すでに開発は完了済み。
誘導弾を納めるキャニスターが角形になっている。
また、88式よりも射程が延伸されている。
上空では轟音を響かせて、航空自衛隊のF-2戦闘機が2機飛来。
OH-1観測ヘリが侵攻する敵勢を偵察。
UH-1汎用ヘリに積載された偵察バイクが展開する。
CH-47JAチヌーク輸送ヘリに吊下げられた軽装高機動車も運ばれてくる。
無人偵察機システムFFRSの飛行も行われたが、遠すぎて小さすぎて豆粒の様なので平成22年度の展示写真でなんとか。
87式偵察警戒車。砲塔に搭載したエリコン社製の25mm機関砲をバリバリバリと射撃。
偵察バイク(カワサキKLX250)が進入し、猛スピードで演習広場を横切りジャンプ!!
カワサキのKLX250は新旧2種類の装備が確認できた。2008年型の新型はフューエルインジェクション化、カウル形状の変更、ペータルディスクブレーキになっていたりする。しかしヘッドライト形状は旧型同様に四角。よくよくみるとどちらもバックミラー付いてないんだなぁ。
92式地雷原処理車によるデモ。噴射炎を放ちながら上空へ撃ち出され、空中で数珠繋ぎになった爆薬を落下・爆発させ、地雷原を処理する。
10式戦車4輌が等間隔に並んで走行。
空中ではヘリが待機。
そして一気に広場に突入するとともに煙幕弾を一斉に発射して演習が終了。
動画もどうぞ。