米軍M4カービン バリエーション

Text by Jien

前回のコラムでは、タクトレインストラクターなどの著名なプロフェッショナル達が手掛けた最新の民間仕様AR-15カスタムをご紹介しました。
今回は、アメリカ軍の部隊が実際に使用した(または使用している)現代のカービン銃について、ミリフォトによる使用例を交えながら概説します。

SOPMOD計画

SOPMODとは「Special Operations Peculiar Modification(特殊作戦専用改修)」の略で、米特殊作戦軍(USSOCOM)隷下の特殊部隊員を対象に、個人の好みや任務の条件に合わせて武器を構成することを可能にする計画のことです。SOPMOD計画の進行と管理は、米海軍洋上戦闘センター(NSWC)クレーン師団が担当しています。1989年9月に発足した「モジュール式近接戦闘用カービン計画」が、SOPMOD計画の前身となりました。

SOPMOD計画に基づいて、いくつかのアクセサリーで構成されたキットが策定されています。M4A1カービン用に最初のキットが策定された後、これまでに「ブロック1」(インクリメント1)、「ブロック1段階的更新キット」および「ブロック2」(インクリメント2)が策定され、アクセサリーの追加と更新が行われてきました。

M4A1カービン SOPMODブロック1

SOPMODブロック1のアクセサリーを装着したM4A1カービンです。主に1990年代中期から2000年代中期まで、数々の米軍特殊部隊によって広く用いられていました。アフガニスタン紛争やイラク戦争で使用されたことに加え、映画やビデオゲームなど様々なメディアに登場したことから、今日においても高い知名度と人気を誇っています。


出典: Taylor, L. A. (2005) "SOPMOD Program Overview" NSWC Crane

最大の特徴は、ナイツ・アーマメント社製の「レール・インターフェイス・システム(RIS)」と呼ばれるハンドガードを採用した点です。これにより、フォアグリップやライトなどのアクセサリーを簡単に固定することが出来るようになり、M4A1の拡張性が飛躍的に向上しました。後にRISは同社の「レール・アダプター・システム(RAS)」に更新され、よりしっかりとM4A1に取り付けることが可能になりました。


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なお、様々なミリフォトを確認すると、SOPMODのキットに含まれていないアクセサリーも官給されていることが分かります。中でも代表的なものが、「SOPMODストック(クレーンストック)」と呼ばれるバッテリー収納付きのストックです。これは、SOPMOD計画とは別のM4A1改修計画で導入されたものであり、この他にも、ラッチが延長されたチャージングハンドルや、左右両側から操作出来るアンビデクストラス・セレクターなどが導入されています。


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M4A1カービン SOPMODブロック2

SOPMODブロック1段階的更新キットとブロック2のアクセサリーを装着したM4A1カービンです。2007年頃以降から米軍特殊部隊で使用されている現行のバージョンです。特に、米陸軍特殊作戦コマンド(USASOC)隷下の第75レンジャー連隊と、米海兵隊特殊作戦コマンド(MARSOC)隷下のマリーン・レイダースによる使用例が多く見られます。


出典: Gatewood, B. (2007) "USSOCOM SOPMOD - Miniature Day/Night Sight Development Program" NSWC Crane

最大の特徴は、従来のRISに代わって新たに採用された、ダニエル・ディフェンス社製のRIS2です。RIS2はバレルの先端近くまでを覆う長いハンドガードであり、アクセサリーの取り付け可能範囲が拡大したほか、バレルに負荷が掛からないフリーフロート式を用いたことで、取り付けたアクセサリーに関わらず高い命中精度を確保することが出来るようになりました。


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SOPMODブロック2では、SOPMOD計画の継続と維持に加え、小型昼間/夜間用照準器(MDNS)と武器発射弾数カウンター(WSC)の開発も副次的な課題とされました。MDNSの開発では、ブロック1の照準器に代わる、最新の技術を集約した照準器を選定・調達する計画でした。一方WSCの開発は、発射弾数カウンターを銃に組み込み、収録したデータをコンピューター上で管理することで、銃の過度な使用による事故を未然に防ぐと共にメンテナンス効率の向上を図ったものです。


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M4A1カービン SOPMODブロック1.5

SOPMODブロック1のナイツ・アーマメント社製RIS/RASと、ブロック1段階的更新キットおよびブロック2のアクセサリー(RIS2を除く)を装着したM4A1カービンです。ブロック1からブロック2への更新が開始された2000年代中期から現れ始めました。このようなM4A1の構成は、ブロック1とブロック2の中間であることから、非公式に「ブロック1.5」または「PR」(Phased Replacement; 段階的更新)と呼ばれています。


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ブロック2への更新が開始された後もブロック1のRIS/RASが使われ続けた理由として、RIS2の選定が他のアクセサリーよりも遅れていたことが挙げられます。少なくとも2006年4月の時点では、まだRIS2の選定トライアルが行われていました。


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ちなみに、選定においてRIS2の候補となったのは、ダニエル・ディフェンス社のRIS2と、ナイツ・アーマメント社のURX2、そしてARMS社のSIR2でした。また、実際に採用されたダニエル・ディフェンス社のRIS2には、14.5インチバレル用のRIS2 M4A1、12.5インチバレル用のRIS2 GL/SSC、10.3インチバレル用のRIS2 MK18というバリエーションがあり、更に、フロントサイトポストを残したまま装着出来るFSPバージョンがそれぞれに存在します。



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M4A1カービンとCQBR(ブロック1)

CQBRとは「Close Quarter Battle Receiver(近接戦闘用レシーバー)」の略で、M4A1カービンなどのAR-15系ライフルを、屋内での近接戦闘(CQB)向けに改修するための交換用アッパーレシーバーのことです。NSWCクレーン師団によって開発され、2000年代初頭より、米軍特殊部隊を中心として使用されています。

CQBRの最大の特徴は、近接戦闘に適した10.3インチのショートバレルを装備している点です。また、ナイツ・アーマメント社製のRIS/RASとQDフラッシュハイダー、そしてLMT社製のバックアップリアサイトも標準装備しています。

当初は要件に見合ったバレルが生産されていなかったため、M4A1の14.5インチバレルを切断し、ガスポートの径を広げることで賄われていました。
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CQBRの開発は、元々SOPMODブロック2の一部として計画されていたもので、後にSOPMOD計画から派生して開発が進められてきました。特殊部隊においては、M4A1のロウワーレシーバーに装着した上でSOPMODアクセサリーと共に使用されることが多いため、CQBRにも「ブロック1」「ブロック1.5」「ブロック2」の各バージョンが存在します。
なお、CQBRは本来アッパーレシーバーのみの存在であるにも関わらず、現在では、CQBRを装着したカービン銃自体を指して「CQBR」と呼ぶことも多いため、この言葉が指す内容には注意が必要です。



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MARK 18 MOD 0カービン

MARK 18 MOD 0(Mk 18 Mod 0)カービンは当初、米海軍が大量に保有していたM16A1ライフルのロウワーレシーバーに、CQBRとSOPMODストックを装着して改修を行ったものでした。組み立て作業はNSWCクレーン師団によって行われ、2000年代中期より、米海軍艦船の海上船舶臨検(VBSS)チームを中心として使用されています。


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その外観から、前項の「CQBRを装着したM4A1カービン」と混同されることがよくあります。Mk 18 Mod 0の最大の特徴は、ロウワーレシーバー右側面に追加された特有のレーザー刻印です。また、多くのMk 18 Mod 0はM16A1のロウワーレシーバーを使用していることから、その形状や左側面の刻印も識別の手掛かりになります(M16A1とM4A1ではロウワーレシーバーの形状が異なる)。同様の理由から、CQBRを装着したカービン銃全てがMk 18 Mod 0であるとは限りません。


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現在では、M4A1のロウワーレシーバーを使用しているものや、14.5インチのバレルを持つものも確認されていて、Mk 18 Mod 0の構成は一定していません。この複雑さもまた、他のカービン銃との混同を助長していると考えられます。



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MARK 18 MOD 1カービン(M4A1カービンとCQBRブロック2)

SOPMODブロック1段階的更新キットとブロック2のアクセサリーを装備したCQBR(CQBRブロック2)を、M4A1カービンのロウワーレシーバーに装着したものです。14.5インチバレルのM4A1 SOPMODブロック2と並ぶ現行バージョンであり、2007年頃以降から多くの米軍特殊部隊で使用されています。


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一般的に「MARK 18 MOD 1(Mk 18 Mod 1)カービン」の名で呼ばれていますが、今のところ、その名を持つカービン銃が実際に存在するかどうか定かではありません。何故なら、Mk 18 Mod 1の存在を証明しうる公的文書が未だ見つかっていないためです。そのため、「Mk 18 Mod 1」は誤解から生まれた非公式な呼称である可能性があります。


出典

米陸海空軍および海兵隊の様々な特殊部隊において使用される中でも特に、米海軍特殊戦コマンド(NAVSOC)隷下のSEALチームによる使用例が、その知名度と人気の向上を後押ししました。M4A1 SOPMODブロック2よりもメディアに登場する機会が多く、今最も注目を浴びているカービン銃の1つであると言えます。


出典

最後になりましたが、本稿の内容は現代米軍のカービン銃に関する概要をまとめたものであり、配備や運用の状況は部隊によって異なる可能性があります。また、個人や部隊によっては、官給品ではない自費購入されたアクセサリーが使用されることも珍しくはありません。特にグリップやストック、スリングなど、個人の評価が分かれるアクセサリーには注意が必要です。
現代米軍の装備に関心を寄せる方々の間で本稿が共有され、知的好奇心の充足や今後の研究活動に寄与することを願って、本稿を締めくくりたいと思います。


◆参考文献
・AR15.COM "Navy Mk18 Mod0" Link
・AR15.COM "SBR picture and discussion thread" Link
・AR15.COM "MK18 / CQBR / Variants and Clones Thread Part 2" Link
・AR15.COM "M4A1 SOPMOD Block II clone picture thread" Link
・AR15.COM "AR SOPMOD "Block X" differences" Link
・AR15.COM "M4 SOPMOD Picture Thread (Block I, 1.5/PR, II)" Link
・AR15.COM "Official Mk 18 & CQBR Photo and Discussion Thread" Link
・Bartocci, C. R. (2004) "Black Rifle II: The M16 into the 21st Century" Collector Grade Publications
・Bartocci, C. R. (2008) "U.S. Navy Mk18 Mod 0 Custom Close Quarter Combat Weapon for the Seafaring Service" Small Arms Review, 11(7), Moose Lake Publishing
・Davis, J. (2007) "Weapon Shot Counter (WSC)" NSWC Crane
・Gatewood, B. (2007) "USSOCOM SOPMOD - Miniature Day/Night Sight Development Program" NSWC Crane
・Johnson, J. (2003) "CQB Receiver - M4A1 Carbine with 10-Inch Upper Receiver" NSWC Crane
・Taylor, L. A. (2001) "SOPMOD Program Overview" NSWC Crane
・Taylor, L. A. (2003) "SOPMOD Program Overview" NSWC Crane
・Taylor, L. A. (2005) "SOPMOD Program Overview" NSWC Crane
・Taylor, L. A. (2006) "SOPMOD Program Overview" NSWC Crane

Jien(じえん)
1994年、栃木県生まれ。AR-15とタクティカルギアが大好き。AR-15の開発と発展の歴史、世界各国の軍隊・法執行機関におけるAR-15の運用状況、そしてアメリカ合衆国の銃産業・銃市場・銃規制について勉強しています。
http://jisakujien.org/


2015/02/26

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