なお、記事中の法令解説等は執筆者の個人的見解に基づくものであり、その正確性は保証されません。
ヒゲKOBA 回顧録 トイガン規制 パート3
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文・イラスト/小林太三
総理府令、恨まないで 裏から見れば、の続き
今回も前稿に続いて『少許の加工』『主要部材って何』や『薄板パーツやスプリング・ビス類』、そして『完成品と部品の違い』の話だ〜〜。
『少許の加工』って何のこと?
銃刀法には「少許の加工により金属弾丸が発射できるようになる……」と書かれていることが多いのだが、この“少許”とはどういう意味なのかと、以前警察庁に通っていた担当技官に尋ねたことがあった。「少許の加工」とは、「専門的な技術を持たない一般人が、一般的な方法で入手できる工具や機械を用いて行うことができる加工」を指す言葉なのだそうだ。
つまり、模型好きのお兄ちゃんとか、工業系の教育を受けていないごく普通のトイガンマニアとか、トイガンメーカーで働いた経験のないトイガンマニアとかといった、ちょっと器用なごく普通の、特別な工業技術を持たない人達が、一般向けのDIYショップで売っている電動工具等を用いて行える範囲の加工……これを指して「少許の加工」というのだという説明を受けたことがあった。
その後、52年規制を迎えての勉強会でも、弁護士の先生方から同様の解釈で正しいというレクチャーを受けたこともあった。
この程度の工具類でやれる加工が「少許の加工」の範囲だろう。 |
ということは、量販店で買った電動ドリルで銃身を貫通させた場合には、これは“少許の加工”に当たると理解して間違いないようだ。
しかし専門の加工技術者が、金型メーカーにあるような放電加工機やレーザー加工機を使わないと出来ない加工は、これは「一般の人が普通の機械工具で容易には出来ない加工」であるため、この場合には少許の加工ではないということになるんだね。
『主要部材』って何?
その構造物の主要部分の材料のことをいう。取っ手がプラスチックで出来たフライパンであっても、その本来の機能を果たす鍋の部分が鉄製であれば、これは「鉄のフライパン」と呼ぶだろう?
これと同様に、その物の本来機能を果たす主要部分の材料が主要部材なのだから、一部に違う材質が使われていても、その材料はけっして主要部材とはいわない。したがってモデルガンやエアガンの主たる部分の一番重きをなす部材が「主要部材」というわけだ。
ということは、モデルガンやエアガン全体を構成する部材の中では、オートマチック・タイプでは、スライド、アッパー・レシーバー、ロア・フレームといった主要部品。リボルバーでは、バレル、シリンダー、メイン・フレーム等、この部分が欠けると、全体がその形にならない主要な部品。これ等が、いわゆる「主要部材」だ。
だから、これ等の主要部材がどんな材質で作られているかによって、それ以外の細かい部品の素材が違っていても、先のフライパンの例えと同様に、その物は「金属製の」とか、「プラスチック製の」と呼ぶのが一般的だろう。
また主要部材と呼ばれる部材には、“主要を成す構成部材”という意味と、“主要な機能を果たす部材”という意味もある。だから薬莢内のキャップ火薬を発火させるという、モデルガンの撃発装置等を内部に持ち、その外観をも構成する撃発部分の部材は、当然のごとく「主要部材」といえる。
例えばハイキャパを構成している三つの主要部材のどれかを金属製に交換すれば、その主要部材の大半が金属製となってしまうのだから、場合によっては、それを“金属で作られたけん銃タイプのエアガン”と判断される場合が出てくるかも知れない。これでその意味がワカッタカナ?
『50パーセント以下ならメタルOK』??
以前、「けん銃タイプのエアガンの黒色金属パーツは全体の50パーセントを超えなければOK」という文章が業界に流されたことがあった。
当時私が調べたところでは、こんな判断は関係省庁からのどこからも出たことはない。
もしそれが正しいのなら、平成15年3月の「モデルガン、ソフトエアーガンの区別なく……」なんて通達が警察庁から出されることとの整合性はどう説明する?
ではなぜこんなことが起きたのだろう?
私が推測するには、あの52年規制の前後に、当時組合の事務局長だった斉藤氏と私で再三警察庁に通っていた頃、例えプラスチックモデルガンといえども、マガジンとかスプリングとか、細いロッドとかいった部品や、外側のハンドガードやワイヤー・タイプのストックのように、機能に関係ない厚みのない細い部品の素材に関する個別の質問をしていた時に、『どうしてもプラスチックではその機能が果たせない場合には金属材料の使用を黙認してあげる』という形の“暖かな判断”をいただいた記録が組合に残っていて、それを主要部材の判断とくっつけて、身勝手な結論をデッチ上げたのではないかと、私は解釈している。
しかしそれは、後の組合の技術委員長が警察庁からの指示を仰いだのではなく、我田引水的な解釈によるものであったようだ。その証拠に後日、外部からの突き上げによってこの文章は撤回されたと記憶している。
しかし今でも、この『50パーセントまではOK!』ということを本気で公言しているカスタムショップがあるが、こんな無根拠で身勝手な解釈がエスカレートして、再度規制を招く原因となってしまうことを心から危惧している。
金属製のモデルガンほど、その材質や工法が詳細に法律に明記されてはいないプラスチックモデルガンやエアガンの場合でも、“プラスチックではその機能を果たせない部品に限り、金属の使用が容認”されているのが、その解釈の基本であり、規制後の当局の一貫した解釈のようだ。
したがってこの基本解釈をモノサシにすると“本来プラスチック製でもその機能が果たせる部品まで金属製にすることは認められない”ということが基本原則と考えるべきだ。
だから、スライド、フレーム、バレル等の主要部品を含まない小物部品だけでモデル全体の50パーセントを構成することは不可能なため、そんな主張が成り立つはずはない。
『薄板パーツやスプリング・ビス類』は?
総理府令では、金属製の摸擬銃器の主要部材は「ブリネル硬度91以下の硬度の金属で作られていなければならない」ことになっている。ならば、スプリングや薄い板状のマガジンやネジといった、軟質の金属ではその機能が果たせない部品の材質はどうするのか?
当時これについても担当技官と討議し、『ブリネル硬度91以下の金属では役に立たない部品に限り、この材料指定を除外してあげるが、それ以外はダメだぞ』ということで折り合ったのだった。
ブリネル91より硬い金属で作っても容認される部品はこの程度だろう。 |
しかしこれについても、あくまでも業界を潰すことが目的ではないという趣旨からの“容認”であるため、ブリネル硬度91以下の亜鉛合金や真鍮でも機能的には問題はない部品、例えばハンマーやトリガー等をスチールやステンレスで作ることは、この容認事項に当てはめると、これは完全に総理府令に違反したことになるのだということを、プロ・アマを問わず、よく覚えておいて欲しい。
そしてこの材質にかかわる事柄は、本来は模擬銃器、つまり金属モデルガンに関する事項なのだが、平成15年3月12日以降は『モデルガン、ソフトエアーガンの別なく……適用されるものであること』と、警察庁生活安全局銃器対策課よりの通達に明記されているため、他の主要部材と同様に、正しく認識していただきたい。
近年、アジアのエアガン産業は、とっくに日本を追い抜いて世界を席巻している。
そしてこれ等の製品が日本のマーケットにも上陸し、海外のマーケットとの材質規制やパワーリミットとの違いから、日本のマーケット内での禁止材料や威力オーバーの問題が発生している。
パワーについては、今では一応皆さんが遵守しているようだが、主要素材については、海外同様のスチール・ボディのアサルト・ライフルやSMG(サブマシンガン)、GBBと呼ばれているガスブローバック・エアガンの主要部分にスチール・パーツを使ったエアガンを、大手の輸入業者が輸入して、日本国内に流通させている事例が次第に増えつつある。これとて平成15年以降の法解釈から見て、このままいつまでも見過ごされるはずはないと思う。
「弾速測定記録」と称した紙ペラ1枚だけの審査で税関を通過しているスチール・パーツをふんだんに使った輸入エアガン。これに比べて、最近ではかなり細かくチェックされるようになってきているモデルガンとの矛盾は、46年と52年との2回の規制の嵐を一身に受けながら通り抜けてきた私としては、あまりにも目に余るどころか、誠にもって腹立たしい!
取締当局からこの矛盾を指摘される前に、トイガン業界が一致して自浄作用を発揮してもらいたいと痛感している。
過去に身勝手な法解釈の間違いによって銃刀法違反や武器等製造法違反に問われた国内メーカー達。私は決してこの人達を擁護する気はないが、これ等の海外製のスチール・ボディやパーツを使ったガスブローバックのエアガンを、「パワーさえOKなら大丈夫」と、平気で輸入している輸入業者は、ノーブレーキのレース用自転車を公道用と称して平然と売り、路上での自転車事故を助長している確信犯的販売業者と、なんら変わりがないと思う。そしてこれを買うマニアにも、同様に社会的責任があるはずだ。
歩行者の補助用具とばかり思っていた自転車だが、道交法では荷車や人力車と同じ“軽車両”であるため、今の無法な自転車の走り方や違反事故によって相応の取締や裁判が行われた事例が増えている。
これと同じで、現行法律の勝手な解釈や軽視が続けば、事故を起こした場合には凶器としての扱いを受け、相応の罰が科せられ、結果、さらに厳しい法律改正や強固な取締が実行されるようになるであろうことは、自ずと想像できるはずだ!
『完成品か部品か?』
恒例のブラックホールの会場で、先日もある個人出店者から「金属モデルはバラしておけば“パーツ”でしょ?」と聞かれた。
この状態についての見解も、あの当時技官から、その判断についてこんな話を聞かされたことがあった。
こんな状態で置いてあるトイガンは、けっして部品とは言えない。 |
「手入れや点検の目的で銃器を分解してある状態を通常分解というのだが、これは、その後、すぐ組み立てられる状況まで分解している状態をいう。一方、通常の工具等を使って部品一つずつまで分解した状態を、完全分解という。
したがって、工具等を使って組み上げないと銃として機能しない場合はともかく、すぐ組める通常分解では、これを『部品状態』とは言えない……ということだ。だからマガジンを抜き、スライド部分とフレーム部分を外しただけで置いてあるけん銃は、それを部品とは言わないだろう」という説明を受けたことがあった。
特に回転式けん銃では、銃身は工場以外では分解できないから、シリンダーとグリップを外しただけでは、常識的にも部品とは言えるわけがない。「だからそういうセコイ質問は君にとってマイナスだぞ!」と諭されたことがあった。
ということは、黒いモデルガンや金属製の黒いエアガンを、こんな状態で保管することは、法律違反と判断されても仕方がないだろう。
『当時の金属製モデルガンが壊れたら』どうする?
現在の金属モデルガンは、すべて現在の銃刀法と総理府令に定める内容に沿って作られていなければいけないことは言うまでもない。
しかし昭和52年の構造規制以前に作られたモデルガンについては、それを規制以前から持っている人が、その後の昭和52年の総理府令に定められたように、自分でバレルやボルト内に超鋼金属をインサートして作れるはずがないため、46年規制に従って「銃口を金属で塞ぎ、グリップ以外の外観を白又は黄色に塗る」ことを施してあれば、それで良いことになっている。
しかしそれ等のモデルガンの部品が壊れた場合にはどうすれば良いのだろうか?
壊れた時期が2回の規制以前であれば、当時の規制内容に準拠した部品を買えばよかったのだが、規制以降に故障が発生し場合にも、修理のための部品が必要となった場合にはどこかから部品を入手する必要がでてくる。
しかし規制以前の状態の部品は、規制以降はその製造も販売も禁止されているため、どこかの専門ショップに新規に部品の製作を依頼することになるだろう。
「こんな場合の該当法律との整合性について教えて欲しい……」と、今回の原稿を書いている時に相談の電話があったので、ちょっとそれについて触れておこう。
壊れていようがそうでなかろうが、そのモデルガンでも部品でも、現在の法律に準拠していなければいけない。
しかし、壊れた部品を規制以降に新規に製作するということは、製作する時期の規制内容に合致した物でなければならない。
するとどうなるのか? 例え2回の規制以前に作られたモデルガンの部品であっても、これを規制後に作る場合には、それは新規製作となる。だから、それは当時の復元ではなく、現在の当該法律が定める所定のインサートや安全構造をクリアーできる条件と色で製作されなければ、それを作った者は法律に違反したことになってしまうのだ。
警察庁通いをしていた頃の私。手に持っているのは1970年万博展示用にワンメイクした無可動フリントロック・ピストル。 |
リアルガンからコピーしたウレタン成型のボチャードとFN1922。下はUSPのカッタウエイと,GM−5 のメッキモデル。このモデル達はどれもプラスチックモデルだが,そのリアル度は自慢したくなるほど良いムードに溢れている。法律を犯してまで黒い金属ボディが欲しいという考えは,個人的なエゴでは済まされない結果を招くのでご注意を。 |
この件についても以前警察庁の技官に聞いたことがあったが、その答えは「本来ならば、規制後には、法律の趣旨から云うと、それ以前のモデルガンは存在してもらいたくはない。でもそれが、例え社会的に見て有用性の乏しい物であっても、個人の財産権を脅かすようなことはあまりしたくないからね……」ということだった。
多分この答えは、当時の担当技官の人間としての温情から出た本音であったのだろうと思う。
だから皆さん。このあたりの法解釈については、この温情を裏切らないためにも、よ〜く肝に銘じておいてください。
ハイ! 今回はここまで。次回は趣味の対象物とその社会的有用性についての話をするつもりだ〜
今回の参考資料:
警視庁ホームページ「モデルガン、エアーソフトガンについて」 /
Wikipedia「モデルガン」 /
Yahoo 検索「エアーソフトガンのパワー規制」 /
Yahoo 検索「モデルガン規制」 /
Yahoo 検索「模擬銃器」 /
Biglobe,ne[日本の武器兵器] /
Cobra ユs hobby「モデルガン規制」 /
Welcome to manosun. /
STGA 資料 /
ASGK 資料
小林太三 (こばやし たぞう) 元MGC副社長、現(有)タニオ・コバ社長。 1936年生まれ。海外にもその名を轟かせるトイガンデザイナー。少年時代の模型趣味からモデルガンメーカーMGC入社。様々な人気モデルガン、エアガンの設計を手掛けたトイガン界の重鎮。 |
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