PDI メーカー訪問記 国内カスタムパーツメーカー
レポート:モロ☆
日々様々なカスタムパーツを開発し世に送り出すカスタムパーツメーカー。その内側に迫り、ルーツやフィロソフィに迫る!
今回は、和歌山県にある、折しも創立30周年を迎えた「PDI」に訪問した。
お話を伺ったPDIの清水さん(右)とタンさん。
-30周年おめでとうございます
P)ありがとうございます。元々弊社はペイントボールからスタートしているんです。そういった流れの中で「発射装置」の研究開発に移ったと。発射器の開発をしていくなかで、警察や法務省といった官公庁と連携して、防犯や訓練用の発射装置の共同開発っていうのがルーツです。
こちらが官公庁向けの発射器。訓練や暴走族対策に使用されるという。
同じ発射装置のノウハウを活かすということで、当時の社長が何かでトップに立ちたいということがあって、そこでチョイスされたのがエアソフトガンだったんですね。ペイントボールで得た知識などを元に、エアソフトで斬新な機構を生み出して、自ら組んで広めてっていうのを率先してすることで広めていこうっていうのを始めたんですね。
ーベースはペイントボールなんですね。そこから枝分かれして、エアソフト事業へと参入されたと?
P)そうですね。(映画の)「バトルロワイヤル」に協力したりとか、そういうこともやっておりましたね。
ーPDIはなんの略ですか?
P)「Pursuit Design Inc.」です。元々「有限会社パースーツデザイン」ですが、現在では「株式会社PDI」となっています。「株式会社」と「Inc.」が被っちゃうんですが、前身の名前を残すために敢えてこの名前にしています。
ーインナーバレルなどのイメージが強いですよね。
P)ラインナップ的に考えるとそれは間違ってないですよね(笑)。
特に印象強いのは01バレルだと思います。
検品が終わったバレル。仕上げ工程後に全数チェックされ、不良品を見逃さない体制を構築している。
ーバレルの製造上、コダワリはありますか?
P)まず、素材へのコダワリですね。そこへの力のかけ具合は真鍮の比ではないですね。また材料コストが高いので、それを無駄にしない為の管理にもの凄く手間がかかっています。
何より、最終的な仕上げの精度と検品ですね。そこへの時間と人手のかけ方っていうのは他に負けないっていう自負がありますね。
加工が終わり、仕上げ行程に送られる直前のバレルやレシーバー。様々なサイズが混在するのは、材料を無駄にしないための工夫なのだ。
ー素材はステンレスですか?
P) SUS304という素材です。ステンレスとしては一般的に使われている素材なので身近にあるものですね。
ーこの素材の選定理由は?
P) 一番は耐蝕性ですね。当時の社長の考え方で、SUS304は難削材といわれていて、削るのが大変な材質なんですね。そこに挑むっていうのが、当時の社長がもの凄く強く打ち出していたところで。この素材はすごく堅いです。なので刃物管理だったりも大変になりますし。やっぱりこの素材を精度良く削って、ここまで仕上げてるんだぞ!一般製品と一緒にするんじゃないぞ!っていうのが、よく言われていたのが、エアガンっていうとオモチャってなっちゃうけど、そうじゃなくて我々は工業製品を作っているんだから。それは忘れちゃいかんぞってよく言われていました。
その思いがあるからこそずっと精度や品質に時間と手間を掛けるっていうことは忘れずにやっていることですね。これはもうホントにずっと言われました。
これはバレルを生み出すNC旋盤。材料からバレルの切り出し、加工を行っている。
ーこれは技術的な挑戦でもあったんですね。
P) そうですね。弊社のアピールとしてどういう機械を使って、どういう削り出しをしてこういう製品になりましたよという説明が多いんですね。こんな複雑な削りをしましたと(笑)。
それこそPSG-1のチャンバーブロックが特にそうなんですが、アレはパフォーマンスモデルなんですよ。PDIはこれだけ大変な加工ができる技術があるんだぞっていう。その技術力を提示するための商品ですね。いかに難しい加工とかにチャレンジして、PDIは技術力っていうイメージを打ち出したいと。
PDIでもロングセラーを誇るPSG-1のチャンバーブロック。リブ加工や肉抜きなど、機械加工のオンパレードだ。
ー様々な内径のバレルがラインナップされていますが、その内径をチョイスした理由は?
P) わりとザックリしてるんですけど、6.01に関しては数字のインパクトですね。そんなんできんの?っていう(笑)。もちろんBB弾とバレルの隙間を埋めて、後ろから押す効率を高めてっていうのも理由であったとは思いますけどね。
ーPDIの定番製品としてはバレルですかね?
P) 特に国内需要よりも海外需要に強いんです。特にヨーロッパ方面が強いです。求められるのはハンドガンのステンレスバレル。弊社だとバレルだけで4〜500のラインナップがあるんです。内径だけで8種類、最近9種類目が出たんですけど。ご存じですか?5.99ミリバレルっていうの出したのを?
ー6ミリ切っちゃったんですね!
P)
ノリもあったんですが、インナーバレルにおいては過去で一番インパクトあるんじゃないかなっていうことで、1回実験的にやってみようかと。BB弾は5.97とか5.95で収まる弾も結構あるんで、今まで6.01で飛んでるんだったら5.99でも弾を選別すれば何ら問題ないよねってことで、実験してみたら弾詰まりもなく飛ばすことができました。そこまでは実証しています。
実際、出力もちょっと上がりました。集弾性においてはまだまだ検証せんと、もっとテストせんと分からんなぁってところはありますね。ただ01を超える初速を上げる方法ていう意味合いでは一つ出来たんじゃないかなってのは結果としてあります。
先代の社長としては、弊社は開発機関やっていう強い思いもあったので、そこは忘れちゃいけないなと結構思ってて。
そんなところにお金を掛けて、それだけのために少量材を買って使うなんて誰もやらないから、じゃあPDIやったらいいんじゃないの?ってことで。
ーバレル以外にも、VSR系の製品が代表的ですよね。
P) 今は特にそうだと思いますね。昔ほどハンドガンや電動ガンのパーツは扱っていないので、今の方だったらVSRの印象が強いのかなって思いますね。
VSRって、性能的にも価格帯的にも勧めやすいっていうのがあると思うんです。VSRがボルトアクションの入り口になったというか。VSRの流通がもの凄く増えたことで、カスタムをするという意味合いで、もの凄くやりやすいモデルだったってのも流行った理由の一つかなと。分解するのも簡単ですし、パーツ点数も絞られてるわけで。カスタムのハードルが下がったっていうのがあるとおもうんですよね。
当日ご用意頂いた製品の数々。こうして改めて拝見すると、どれもに切削加工技術が活きている。
ーこちらには、色々な製品がありますね。
P) 実は既存のものに見えてちょっと違うのがあるんですよ。ココにあるのはVSR用の加速シリンダーなんですが。
ーバレルをショート化するということですか?
P) そうですね、それもできます。この加速シリンダーに関しても、どの位置に何ミリのポートを持ってくると一番効果が現れるかっていうことを検証した中で現状ベストのポジションに穴を開けて。
ある程度、VSRなんかだと出し切っちゃったところがあるんですが、次のステップにあげてあげようかなってイメージで「ネクストラ」というブランドを立ち上げたんですね。
それで、それぞれボルトアクションとガスと電動とで棲み分けてるんです。お客さんのアレンジ幅だったり、それこそ研究して貰えるような素材を提供しようってことで、ピストンだったりシリンダーヘッド、シリンダーに関しても、研究材料としてのパーツを出したいなってことで、今こういうのを新しく作っていってます。
最終的にはアレンジってところですね。その色が強いんですけど。VSRなんかホントにいま個性的で。加速シリンダーを自作されたりピストンに重り巻いたり、ノズルの内径絞ったりとか。そういうのを手作業でやってる方が増えてきたって背景があって。だったらその素材を弊社で提供しましょうってイメージで、こういった製品が出てきてるってことですね。
そうこうしている間にVSRのショートがめちゃくちゃ動き始めてきて。もしかしたらそこにマッチするのかな?ってタイミングになってきたのかも知れないですね。
あとはチャンバーですよね。最新のモデルはネクストラチャンバーって名前で出す予定です。これに関しては今までのチャンバーの難点の一つであったホップ調整、チャンバー抜いてイモネジを上下させるっていうところがネックだったんですね。それがクリア出来れば良いのになって声が多かったので。
それを叶えようってところで、マルイ純正のホップルートを使えるようにしたっていうのと、ダブルホップを活かしたままどちらも調整できるようにしようと。敢えて最後に曲げるっていう調整もできなくなはいチャンバーになっています。これはメチャクチャ大変でしたね。
ーこれは見るからに、もの凄い行程が・・・
P) 中間部分も削れるだけ削ってますし、そこにホップのバーだったりクリックボールをを仕込んで。目に見えないくらい。目に見えないくらい小さい球がクリック感を出してるんですよね。
VSRのチャンバーにここまで懸けるのはきっと弊社だけしかやらない(笑)。なにこれって思って貰えるような驚きを与えられるっていうのも弊社なりの売りだと思うんで。なんでこんなことしたん?って言われそうですよね。
そういう面でいうと、わざわざチタンでシアを作るのもそうですし。なんでチタンなんだ?って思われるんですよ(笑)。たまたまチタンの業者さんと繋がったっていうのもあるんですけど、チタン屋さんが弊社のファンだったらしくて。なんとかチタンっていうものをエアソフトで活かしてくれないか?っていうお話があったので。
ー材質的に、チタンはどんな特徴があるんですか?
P) 削るのが大変で。研磨ができないんですよ。熱を持ちやすくて、手作業ができないんです。グローブしてたとしても、グローブ溶けるんですよ。人間業では処理できないっていう。
仕上げ工程は手作業で行われている。材質はもちろん、こういった工程にもコストを掛けることで品質を保っているのだ。
そういう失敗例も、あるにはあります(笑)。
研究・検証っていうのを間に採り入れながらやってるんで、こういうエピソードもあります。チタン製レシーバーも売ってはいないですが、存在はしています。2個くらいあるのかな?材料コストが高すぎて売り物にはならないんですけど。アウターバレルもどうか?という話を頂いたんですが、素材がメチャクチャ高くて。さすがに発注してないですけど。
ーお話を聞いてると、大体が挑戦だなっていう感じがしますね。
P)そうですね、やはりそこは忘れないようにしようと思ってますね。研究だったり挑戦だったりっていう部分に関しては忘れてはいけないでしょうし、それが終わってしまうとPDIの価値が薄れてしまうんじゃないかなってところがあります。他の会社にできないことをやらないと、新しいモノも生み出せないなっていうのがあるので。エアガン業界に限らず、他の業界においても、人があまりやらないところにチャレンジしていきたいっていうのはありますね。
ー今後の計画は何かあるのですか?
P) 私たちはパーツメーカーってことでやってきましたけど、どこかで発信する側に転換していきたいなっていうのが。これからはもうちょっと広い範囲をカバーできる主力を作っていかないといけないなっていうのがあって。そこで30周年というのも重なって、そのスタートがこの新しいボルトアクションにしたいなというのがあります。これには弊社もかなり気合いが入ってますね。
ーこのボルトアクションの内部機構はオリジナルですか?
P) 内部に関してはバレルやチャンバーなどのM4共用部品を除いては完全にオリジナルです。トリガーとシアしかなくて、トータルのパーツ点数でいってももの凄く少ないですね。スプリングガイドやシリンダーヘッドも専用のものになっています。
グリップなんかも電動ガン用ですが、基部を変えることでガスガン用も使えます。フレームの厚みはガスの規格で薄くなっているので、似合うのはガスガン用グリップだと思うんですよね。コレが一番最初の試作モデルです。
かなり早い段階で海外のパーツメーカーからも声がかかっているので、それだけ見てもらえているんだなぁと思いますし、向こうにとっても利益があるって見てもらえてるのかなと思うので、ありがたいなぁと。
ーVSRのイメージを引き継ぐという意味でもエアコッキングなんですか?
P) これまでやってきたボルトアクションというところですよね。変わらずずっと提供してきたのはボルトアクション機のパーツなので、そこに関してはPDIの歴史からは外せない部分だと思うんですね。ここにPDIのノウハウが詰まってる部分は多いと思うんで、このモデルに関してもボルトは外せないってことですね。M4の形をしてるからってチャージングハンドルの位置でコッキングするていうところに持ってこなかったのはそういう理由ですね。ここから色々進んでる部分もあって、アンビでも使えるようにしようと思ってるんですね。右と左、どちらでも使えるようにするつもりですね。
ー実際に発射は可能ですか?
P) はい、撃てます。社内のレンジでは初速や弾道のテストは終わっています。初速はバレル長200ミリ弱で85m/sくらいは出ています。初速も安定していますし、発射するところに関しては大きな問題はでていないという感じですね。
ー先日、クラウドファンディングを行っておられましたが、結果はいかがでしたか?
P) ピンクのコレですね(笑)。最終的には目標の200%を達成しました。これに関してもPDIの遊び心がありってとこですね。他の会社さんとの繋がりもあったので、PDIだけじゃなく共同でやらしてもらったんですね。その会社さんがマーケティング担当で、弊社が制作担当っていう形で。エアソフト以外っていう部分で、社会貢献という部分でも展開を増やしていきたいなって思っていたので。これは現社長の思いもあるんですよね。
新感覚マルチツール「HEX TOOL」。フックやベルトループ、カッター、コンパスなどの機能をつなげて自分好みに組み立てられる。
ー地元を盛り上げるような感じもありますね
P)和歌山県の企業は、最近和歌山県を盛り上げようっていう色が強くなってきてるんです。私たちも加工とか研究開発っていう部分で和歌山の企業をフォローしていきたいなっていう思いもあるので、何とか実現したかったってのはありますし。地元の方から上げて貰ったお声に関してはできるだけ応えたいと思いますし、何か協力してやる会社さんはできるだけ和歌山の企業さんを探して、そこといっしょにやれるようにっていうのは意識して探してますね。何だかんだ言いつつ和歌山もモノ作りの街なんですよ。特に海南とかモノ作り系の会社さんがあって伝統工芸品なんかが多いんですよ。和歌山には根来衆が、和歌山はテッポウの街だったもんですから、そういうのもあってココに先代社長は会社を建てられたと思うんですよ。
ー現代に生きる根来衆ってことですね。
P) いつかVSRの木ストに根来塗りしたりですとかやりたいんですよ。カッコいいでしょ?せっかくこの根来に近いところでやってる以上、そういうこともやりたいなとは思ってますね。最近弊社は木ストのフルコンプリート組んで売ったりしてるんですけど、IFプロダクトさんのストック使ってます。ストックのバリエーションがとても多くて、実際手元に来て品質もすごい良かったですし。直営店で限定で出したんですけど、出してすぐ売れちゃって。木スト欲しい人はいるなぁと。
ー色んなところと組むのは良さそうですよね。
そういう流れが出てきてるんで、乗っかっていこうかなって流れになってます。我々も繋がり増やしたいですし、業界のみんなを巻き込んでみんなで盛り上げようって話もありましたけど、今後はそういうのも大事なのかなって思ってます。得意分野がそれぞれで、得意なモノを発揮して良いモノを提供できたらって思います。
機械加工技術を駆使し、様々なパーツを世に送り出し続けるPDI。その技術はもちろん、様々なコラボレーションを経て作られるプロダクトはチャレンジングで、フットワークの軽さが活かされている。
また、話題の30周年記念モデルである「PSR-30Y(仮称)」を始めとした新しい活動にも注目が集まる。今後の展開にも要注目だ。
取材協力:PDI
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