知る人ぞ知るイスラエルの個性派銃――というか、人情派銃というか変態銃というか……。とにかくイスラエル版のAK-47です。
1967年。いわゆる六日間戦争の第三次中東戦争の後。
イスラエルは軽量で、丈夫な、そして命中精度の高いライフルが必要であると確信しました。こうして「NATO標準弾を使用するアサルトライフル」の開発が発足。
トライアル形式にして発案を求めると、様々な試作ライフルが寄せられました。選考の末、数あるライフルの中から最終選考に二つ選ばれます。なんか文学賞みたいですね。
選ばれた二つとは、あの短機関銃ウージーの開発者であるウジール・ガル氏の試作ライフルとと、イスラエル・ガリリとヤコブ・リオールの共同開発したライフルでした。苦心の最終選考の末、ガリリ&リオールがついに採用。こうして生まれたのが、ガリル・ライフル・システムです。
設計者ガリリは、イスラエルの環境においてはM16よりAK-47が適していると考えました。二人が提出したライフルはAKを基盤に、そこから欠点を排除していったものでした。つまり名実ともにAKのコピー商品なのです。AKが有名銃で欠点もはっきりしている事から、本家より優れた点も多い、イスラエルの名作ライフルが誕生したわけです。
と、まあそうゆう話はそのくらいにして。ガリルと言えば何? といえば。
もちろん「栓抜き」です。ビール瓶のふたを抜くあの栓抜きです。これが面白いエピソードであり、ガリルの特徴、いやチャームポイントです。イスラエル兵士にガリルが導入され始めて、しばらくした頃。前線の兵士から装弾に関する不良・不具合などが相次いで報告されました。調べてみたところ、マガジンの給弾口が変形したものが大変多いではありませんか。
まさかイスラエルの暑さでマガジンがとろけちゃうわけも無いということで、どうゆうわけかと調べてみますと、なんとも失笑な事実がわかりました。前線で兵士がビンのフタをあける際、栓抜きが見当たらないという理由で、銃のマガジンや銃剣を器用に使ってビンの王冠を外していた事が発覚。本当、何て事をするんですか。
さて。通常なら、まあ「命を守ってくれる大切な相棒だから、大切にしなさい」とでもお叱りをして、栓抜きを兵士たちに配れば済む話です。我らがガリル様は違いました。なんとバイポッドの固定器具に栓抜き用の金具を追加したのです。「ああ、そんなに銃で栓を抜くのが楽しいんだね。よし分かった、じゃあ銃に栓抜きをつけてあげる!」って具合です。
なんて事をするんですか。ついでにワイヤーカッターもつけてくださったらしいです。世にも珍しい個性派、人情、変態でお徳用なライフルが完成しました。これ兵士は喜んだんですかね。「わーい、これで好きなだけ銃で栓を抜けるぞ!」って。わたしならば「いや、栓抜きください。マジで」ってなりますけどね。わたくしがおかしいんですかね。
はっきり言って本末転倒の大変にいらない機能ですが、その後ガリルは新型が登場するにつれ、この栓抜きの機能は省略されていきました。ぜひとも、「イスラエルの兵士に対するおふくろみたいな愛情の象徴」とでも銘打って、お守り的な要素で復活してもらいたいですな。