東京マルイ S&W PC356 【ハイグレード/ホップアップ】

東京マルイ S&W PC356【ハイグレード/ホップアップ】

レポート:石井 健夫

1985年ベレッタM92Fが米軍制式拳銃になり、アメリカ銃器界の名門、S&W(Smith & Wesson=スミス・アンド・ウェッソン)社のハンドガン部門にとって「困難の時代」が始まった。WWⅡ以降ずっと続いてきた「軍用はコルト(M1911A1)」、「警察用はS&W(リボルバー)」というアメリカ拳銃界の図式が大きく揺らぎ、圧倒的なシェアを誇った警察用リボルバーの座が多弾数オートに、それもベレッタ、SIG 、グロックといったヨーロッパ勢にどんどん奪われてしまう。

S&W社としては当然対抗しなければならない。米軍サイドアームのトライアルに敗れたM459を改良しM5904を出すも今ひとつインパクトに欠け、ポリス関係でも市場でもウケなかった。ヒントを得るべく1992年頃からS&Wはシューティング・マッチ界に大々的に進出する。多くのTOPシューターが好待遇でS&Wに引き抜かれて「チームS&W」が発足。特にアラン・ズィッタ、J・マイケル・プラクスコ、フランク・グレン、そして「センチメーターマスター」で有名なポール・リーベンバーグら、シューターとしてだけでなくガンスミスとしても高い評価を受けていた人々と契約したところにS&W社の本気度が伺えた。彼らは元からS&Wで腕を振るっていたトム・キャンベルと合流、現在も続くS&W社のカスタム部門「パフォーマンスセンター」が始動する。

サイドビュー左
そのS&Wパフォーマンス・センターが1993年にマッチ用の新弾薬「.356TSW(=.356口径チーム・スミス・アンド・ウェッソン)弾」と同時に開発したカスタム・ハンドガンが「PC3566(356TSW)」だ。

実銃によるコンバット・シューティングのメジャー競技の一つである「IPSC」で要求される弾薬のパワーは.45口径を基準に設定されており、弾頭重量が50〜70%しかない9mm弾でその数値を満たす為には装薬量を大幅に増やす必要がある。そこで薬莢の長さを9mmパラベラムの「19mm」から「21.5mm」に延長し内容積に余裕を与えたものが「.356TSW(9×21.5mm)弾」で、弾頭まで含めたカートリッジ全長は9mmパラベラムと同じに調整する事により、銃身交換だけで9mmパラベラムと.356TSWを共用可能にする、というコンセプトだった。実際にウィンチェスターとフェデラルから市販された「.356TSW弾」は計算上、一般的な9mmパラベラム弾の1.4倍もの威力を発揮した。

しかしこの直後に、IPSCのルール変更がなされ、通常の9mm弾でも参加可能な「中威力クラス」が設けられた事と、「高威力クラス」には10mm口径以上の弾薬でないと参加できない、といったルール改変があって「.356TSW弾」は存在意義を失い、「PC3566」もまた立ち消えてしまったのである。

サイドビュー右
というわけで東京マルイ/PC356は1990年代半ば頃、日本の専門誌には1回か2回登場しただけの超レアな拳銃、「PC3566 リミテッド(5インチモデル)」をモデルにしている。IPSC競技での優位性を誇っていたM1911系と同等に戦えるよう造られた。ちなみに筆者は実物を見た事がなく、またコレクター向けの中古銃販売サイトに出品されているという話も聞いた事がない。

しかし1990年代のS&Wパフォーマンスセンターではメンバーが1試合だけ使ってボツになったガン、或いは雑誌に載せて反応を見るためだけに制作されたガン、というのが沢山あったようで、「PC3566 リミテッド」もその一つだった可能性はある。ルックスは抜群に良く、センチメーターマスター=ポール・リーベンバーグの作風が好きな人はコッチも是非持つべきだ。

さて、ハイグレード/ホップアップ・シリーズをかなり重ねた後にモデルアップされたPC356には、一体成型スライド搭載、フルサイズマガジン採用、さらにショートリコイル作動も再現され(ほぼ)フルストロークでエジェクションポートも開くコッキング機構を備え、さらにハンマー&トリガーがシングル&ダブルアクションに連動するなど、マニアをも唸らせる凝ったギミックが満載されている。そんな中、フレームだけは左右合わせのモナカ構造なのだが左右を繋ぎ止めるスクリューはグリップ部分に巧みに隠されており、目を凝らしてよく見ないと気が付かない程だ。

パッケージ
PC356のパッケージも縦型デザイン。寸法はシリーズ共通の「縦290mm x 横180mm x 厚さ50 mm」。銃と一緒に写っているのは今となってはレアな弾薬となった「.356TSW」のイメージか。一般的な9mm弾「9mmパラベラム=9×19mm」よりも長い「21.5mm」の特殊な薬莢にフェデラル社製の高精度ジャケッテッド・ハローポイント弾頭「XTP」が仕込まれたマッチアンモ(=競技用に調整された特別な弾)に見える。

パッケージ内容
ブラック&シルバーのツートーンが眼を惹くPC356は、箱に入った状態もじつにクールでカッコ良い。箱の中央に燦然と輝くS&Wのトレードマークもひときわ誇らしげに輝いて見える。
付属品:保護キャップ、取扱説明書、BB弾(0.25g)150発

競技用の拳銃
「競技用の拳銃」と聞くと、軍用あるいは警察用として用いられる実用的な拳銃とは全く違う「スポーツ用品的なもの」というイメージがあるかも知れないが、欧米におけるシューティング・マッチ界は実銃メーカー各社がしのぎを削る新製品開発競争の現場でもある。銃や弾薬、用具に関するレギュレーション変更もまた、銃器&弾薬メイカーが予測するトレンドや要望、さらに戦場や犯罪現場から得られた「実戦のDATA」を取り入れてのアップデートとして実施されるのだ。

モデルとなった実銃「S&W PC3566リミテッド」はまさしくその激動期に登場し、やがて時代の流れに取り残されてしまった「幻の銃」だ。しかしその開発に込められたコンセプトや思想、さらに競技の現場で凄腕のシューターたちと共に戦った事から得られた数々のDATAや経験が、その後の新製品にも多大な恩恵や影響を与えたハズなのだ。

マズル
シューティングマッチで常に強力なライバルとなるM1911系カスタムガンと互角に渡り合うためほぼ同じ長さ=5インチサイズまで延長されたバレルとスライドが従来のS&Wオートにはなかった迫力と雰囲気を加えている一方で、軽快さ俊敏さを保つためスライド側面を薄く削いで軽量化するための段加工や、更なる高精度と滑らかな作動の両立のため採用されたスフェリカル(=球状)ブッシングなど、繊細なアイデアに満ちたマズルビューが精緻に再現されている。アウターバレルには鋭い5条のライフリングも見えムード満点だ。
真鍮製インナーバレルの銃口はアウターバレルの先端から11mm奥にまった位置にあり、金色が目立たないように配慮されている。

トリガーとハンマー
PC356はトリガーとハンマーが連動し、ダブルアクションでもシングルアクションでもピコピコ動いて楽しめる。筆者にはダブルアクションだとトリガーのカーブがキツすぎる感じなのだが、シングルアクションでの指当たりはとても心地良い。また、個人的にハンマー側面にオイルが付着して光っている様子に「堪らなく萌えてしまう」ので、今回は敢えて拭き取らずに撮影してみた♪

フレームを後ろから包み込む構造の「ラップアラウンド・グリップ」には「Smith & Wesson」のロゴとトレードマーク紋章♪ グロックや後にS&Wから登場する「M&P」等のポリマーフレーム拳銃並みに細く握り易いグリップ感を実現しており、このPC356でも掌に気持ちよくフィットする。

「LYMANトリガープルゲージ」によるコッキング時のトリガープル実測値は「1.27〜1.28kg」だが、じつはこの数値「10回計測して出た範囲」を示しており、PC356の安定度はシリーズ随一で、まさしくカスタムガンに相応しい。低価格商品でも軽々とこれを実現するところが東京マルイの技術力!

スライドにある大型セフティレバーはダミー。実際の安全装置機能はスライドストップにあり、ハンマーが起きた状態で押し上げると「ON=安全」だ。


ブラック&シルバーのツートーン、しかも先端に向かって徐々に先細りになったフォルムがあたかも日本刀のように鋭くシャープで格好良い。また、実銃では複雑なカスタムワークを経て搭載されるボ・マー・アジャスタブル・リアサイトが、じつはスライドと一体成型の金型モールドで表現されているとは信じられない再現度だ。

ところでPC356は筆者と同年代の40代、50代の方々に特に人気が高いようだが、旧くからのガンマニア諸兄には憧れの存在だったあのM59、それも「太陽にほえろ!」で活躍したフレームシルバーモデルの面影を残しつつ、数十年の時を経て研ぎ澄まされ進化したような感慨もあるのではないだろうか?


コッキング時はまず約12mmの空走ストロークがあり、次に“ググッ!”とシリンダースプリングの圧縮が始まって重くなり、ほぼ実銃のフルストローク=約39mm引いたところでコッキングが完了する2段引き。コッキングに合わせてアウターバレルが後退し、さらにチェンバー部分が僅かに沈み込みながらバレル先端は少し上を向くティルトの様子も観察できる。しかもエジェクションポートは開口、と、まさにマニア納得!の完全再現が素晴らしい。

2段引きは外観と作動がリアルになる反面、サバゲーでの素早いコッキングにはやや不利、という感じもする一方、PC356ではダミーで作動しないスライド左側のセフティレバーや、こちらもダミーで固定式の大型リアサイトががコッキング時の指掛けとして丁度よく機能してくれる。

まあ、派手なツートーンで良くも悪くも目立つ存在でもあるこの銃を敢えてサバゲーで使うかどうか?は突き詰めるところ「好みの問題」だろう。


さあ、これから撃つぞ!という瞬間、やはりハンマーがこのように起きていて、ファイヤリングピンの頭が(ダミーではあっても)見えていてくれると嬉しいものだ。

PC356のリアサイトはブレードが大きくスクエアな上に背面の反射防止グルーヴ等もあってクッキリ。フロントサイトはタクティカル仕様のやや斜めに立ち上がったタイプだが、順光でも反射で光って見えなくなるほどではないため、真っ黒に際立ったシャープなサイトピクチャーを得られる。惜しむらくは上下左右の調整ネジも彫刻によるダミーだというコト。せめてセンチメーターマスターのように上下調整だけでもできればより楽しかったと思う。

もっとも、この銃は箱出し状態でも狙点と着弾点がほぼ一致しているので、実際にはリアサイトブレードを動かす必要はない。実射性能もシリーズの他モデルに倣った素晴らしいもので、30m先ならA3紙サイズ、40m先なら上半身サイズの標的を(あくまでも筆者の体感ではあるが)0.20gBB弾なら60〜70%、0.25g弾なら70〜80%の確率でHITできるレベルにある。

マガジン
「装弾数30発」とコッキングエアーガンとしては充分すぎるほどの大容量マガジン。実物より全長が1cmほど短い以外はほぼフルサイズで、装弾状況を確認するための側面孔やS&Wパフォーマンスセンターのマーク、さらに「.356 TS&W」の刻印もバッチリ入り、素晴らしくカッコ良い。実物の9mm用マガジンパウチにもピッタリ収まり、カスタマイズされたマガジンキャッチ、オーバーサイズ・マグバンパー、そしてフレーム下部に備わったフレア型マグウェル、といったカスタムガンならではの仕様を活かした素早い弾倉交換を楽しめる。

マガジン内部にはウェイトが仕込まれ重量は111g(※実測値)でマガジンキャッチを押せばスルリと自重で落下するので、ゲーム中に意図せず押してしまい紛失せぬよう、それなりに注意する必要はある。

スペック


全長 215mm
重量 411g (実測値)
装弾数 30発
価格 3,500円(税別)
発売日 2003年11月21日
発射方式 スプリングエアー・ハンドコッキング、ホップアップシステム搭載
初速 最高:62.1m/s
平均:61.28m/s
最低:59.8m/s
ジュール:0.376J

※東京マルイ ベアリングバイオBB弾 0.2g使用、固定ホップアップ、10発での測定、気温20度、湿度41%、ACETECH AC5000にて測定。


2020/12/23

■関連リンク