東京マルイ KP85 【ハイグレード/ホップアップ】
レポート:石井 健夫
スタームルガー社もまた、アメリカを代表する銃器メーカーの一つであろう。同社の創業は第二次大戦後の1949年なので、コルトやS&Wといった老舗大手より歴史は浅いものの、堅牢で合理的な設計とデザイン、またロストワックス工法に代表される生産効率とコストを重視した製造法の採用により、性能・品質に比して廉価な「値ごろ感のある銃」を一貫して市場に提供し続け、アメリカ銃器界に独自のポジションと存在感を確立している。
「ルガーP85」は1970年代後半〜1980年代にかけて展開された「M1911A1の後継たる米軍制式拳銃選定のためのトライアル」に向けて開発された9mm口径15+1発のオートマチック拳銃だ。 結局このトライアルは1985年に「ベレッタM92FS」の勝利で幕を閉じるのだが、P85は1987年に民間市場でデビューを果たす。1991年にはAFPB(=オートマチック・ファイヤリング・ピン・ブロック)を備えた改良型の「P89」が登場し、同時にステンレス製スライド版の「KP89」がラインナップに加わった。
ベレッタM92FSの成功を受けて1980年代後半からの銃器界はダブルアクション多弾数オートマチックが大人気となり、実質的な品質や性能ではベレッタやSIG、S&W製品等に決して引けを取らず格好も良く、そして価格が安かった事からスタームルガーも大いに人気を博し、.45口径版の「P90」や.40S&W版の「P91」、あるいはそれぞれのステンレス・スライド版である「KP90」や「KP91」、さらにコンパクト版も次々と登場している。さらにP85やP89の後継モデルに当たる9mm拳銃でポリマーフレームを採用した「P95」は、極少数ながらも米軍への採用を果たした。その際の納入価格はベレッタM92FSの半額程度だった、と言われている。
ステンレス製スライドを意味する「K」がモデルNo.の頭に冠されたのはP85の改良型であるP89以降であった、という事実から判る通り、じつは「KP85」という実銃は存在しない。つまりこのコッキングエアーガンが東京マルイ初の「架空銃のモデルアップ」だった事になる。
当初、この製品にはスタームルガーの社名やロゴマーク等が付されていたのだが、実銃メーカーの意匠やライセンスを尊重するようになった社会背景から、現行品では米軍制式採用をイメージしたオリジナル刻印や文字列に変更されている。かつての制式拳銃トライアルに向け「オールアメリカン製品」としての誇りとプライドを賭けてP85が開発されていた当時の熱意を感じさせ、もしかしたらトライアルに提出されたサンプルはステンレス製スライドだったかもしれない…! という空想ロマンをも掻き立ててくれる楽しい仕様だと思う。
パッケージに描かれた箱絵(写真)は発売当初の仕様だ。スライドには「RUGER P85」のロゴ、グリップにはスタームルガー社のトレードマークと「RUGER」の文字が入り、1987年にアメリカで市販された民間仕様のP85を模している。箱の外寸はシリーズ共通の「縦290mm x 横180mm x 厚さ50 mm」。背景のバッジには「SECURITY ENFORCEMENT OFFICER(=セキュリティ・エンフォースメント・オフィサー)」とあるが、直訳すると「武装警備員」。一定の教育・訓練を経て合衆国政府から銃器携帯及び使用の免許を受けた警備員が携帯するものだ。
玩具店や模型店でこの状態のままディスプレイできるようにデザインされたシリーズではおなじみの内箱。銃本体には赤い保護キャップ付きの銃本体。グリップにはHOP-UP搭載モデルである事を示す帯。存在感を誇示するフルサイズマガジン。化粧箱入りBB弾(0.25g)150発と取扱説明書も付く。
KP85はシルバー、メタリックグレー、ブラックの3トーンがひときわ鮮やかで目を惹く。
東京マルイの本製品をきっかけに実銃の存在を知った、とか、実銃の情報等は一切関係なしに引き込まれるデザインだ、というファンも多いKP85。確かにスリートーンの外観は多角形・多面体をイメージするカッティングの形状も印象的で存在感があり、カッコ良くて画(え)になる! と思う人が世界中にたくさんいるようだ。
.45口径版のKP90はシュワルツェネッガー主演のアクション大作「『トゥルー・ライズ』(1994年)のポスターにデカデカと登場していた他、『デスペラード』(1995年)では作品中でも大活躍し、これは実銃のセールスにもかなり貢献しただろう。そして東京マルイ KP85の発売も、これら話題の映画公開とタイミングがバッチリハマっている。
実銃の製造方法である「ロストワックス工法」は一種の鋳造なので、金属素材のブロックから削り出す方法よりもやや強度が落ちてしまう。それをカバーするためスタームルガー製の銃器は各パーツがブ厚く大きめに出来ているのが特徴で、P85でもスライドはとても幅広で大柄だ。しかし同時に構えた時のバランスも計算してサイドを大胆に削ぎ落としてあり、その結果エッジの効いた多角的でカッコ良いデザインになっている。いかにも頑丈そうな銃口部分の眺めは、「ナイフや刀」というよりも「ナタや斧」を思わせる剛健さを感じさせ、これがKP85ならではの個性になっている。
インナーバレルは真鍮製で銃口ギリギリまで伸びているが、同時にライフリングも鋭く、マズルクラウンも美しく再現されているのがクールだ。
全体のボリューム感から比べるとグリップはかなりスリム。さらに適度な丸みのある角が掌に心地よくフィットし、とても握り易い。トリガーはダブルアクションの引き始めの位置から動かないのだが、元々のデザインがかなりキツいカーブなのでそんなに遠く感じない。LYMANデジタルゲージによる実測値は「1.27kg〜1.31kg」とバラツキも少なく、軽くて切れも良い抜群のトリガープルだ。そして樹脂製のトリガーが程よくしなってくれるのもタッチの良さに貢献している。
独特に分厚く個性的なスライド。前方サイドの大胆なカットや、大きく膨らんだ後半の形状、そしてかなり複雑な形状をしたスライド後方左右にあるセフティ兼デコッキングレバーなどが余すところなく再現されている。
ハンマーはスライドのコッキングに合わせて起き上がる他、指で起こすことも出来るが、ダブルアクションには連動しない。そして起こした際の形状もやや薄めか。
実際のセフティの機能はスライドストップレバーにあり、ハンマーが起きている時だけ掛かる。この写真では持ち上げて「ON」の状態だが、シリーズの他のモデルに比べてKP85ではかなり大袈裟に持ち上がってくれるので、セフティをかけたままトリガーを引いてしまって「あれ!弾が出ない!」と慌てるケースは少ないだろうと思われる。
コッキングはシアが掛かるまでのストローク24mmのシンプル型。スライドは幅も高さも十分にあり角に丸みもあって引き易いハズなのだが、滑り止めがなくてツルツルしているのでリアサイトや左右のダミーセフティ等を指掛けとして上手く活用する等、素早くスムーズなコッキングをするには少々の慣れとコツが必要かもしれない。
チェンバー(を模した蓋状のパーツ)がスライド後退と共に沈み込むように可動し、エジェクションポートが半分ほど開くギミックはマニアも納得の素晴らしい配慮とコダワリだと思う。
リアサイト、フロントサイトは角がクッキリ立っているのだが、明るい銀色なので光って見えにくい事が多い。自分の銃ならば黒く塗ってしまうか、蛍光の赤シールでも貼ってしまうと思う。
サイトアライメントは上下左右ともしっかり合っていた。HOPの掛かり具合がまた0.20gBB弾でも0.25gBB弾でも絶妙な加減で、20m、30m、40mといった距離を気持ちよく撃てる。
例によってマガジンは「ホップアップ専用重量タイプ」で装弾数は26発。内部にはウェイトが入っており重量は131gだ。左右合わせ構造なので右側に2箇所(+)ネジが見えるが、実物にもあるプレスの凹加工にうまく紛れている。
実銃では左右両方から同じように操作可能なマガジンキャッチなのだが、本製品では他の一般的なモデル同様、右手の親指で押すタイプのマガジンキャッチになっている。この写真に写っている右側からも押したくなるのだが、残念ながらダミーとなっている。
スペック
全長 | 199mm |
重量 | 453g (実測値) |
装弾数 | 26発 |
価格 | 3,500円(税別) |
発売日 | 1994年9月16日 1995年9月21日 (HOPUP化) |
発射方式 | スプリングエアー・ハンドコッキング、ホップアップシステム搭載 |
初速 | 最高:64.5m/s 平均:63.45m/s 最低:62.5m/s ジュール:0.403J |
※東京マルイ ベアリングバイオBB弾 0.2g使用、固定ホップアップ、室内10発での測定、気温21度、湿度35%、ACETECH AC5000にて測定。
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