『シリア原子炉を攻撃せよ─イスラエル極秘作戦の内幕』
ヤーコブ・カッツ(『エルサレム・ポスト』編集主幹)著
茂木作太郎訳
四六判288ページ 定価1700円+税
2007年9月6日深夜、8機のイスラエル軍機がシリア国内を超低空で侵犯した。目的は砂漠の奥深くで秘密裡に建設されている“北朝鮮製”原子炉の破壊だった。英米情報機関さえも気づかなかったシリアの原子炉建設をなぜイスラエルはつかんだのか? 爆撃に至るまでのスリリングな情報収集、アメリカ政府との交渉、首相の決断と鮮やかな攻撃、そして世界の目を欺く欺瞞工作……。2018年に初めてイスラエル政府が公式に認めたアルキバール原子炉攻撃の全貌を描いた迫真のノンフィクション!
本書はシリアの砂漠の奥深く、秘密のベールに包まれて建設された北朝鮮製の原子炉を2007年9月6日深夜にイスラエル軍機が攻撃した実話のすべてを、エルサレムとワシントンの視点から初めて明らかにしたノンフィクションです。
当時、イスラエルがシリアの原子炉を爆撃したらしいという情報が日本でも流れましたが、その後、続報もないままでした。そして、2018年3月、イスラエル政府はイスラエル空軍の戦闘機がシリアのアルキバール原子炉を破壊したことを公式に発表しました。日刊英字新聞『エルサレム・ポスト』紙の編集主幹を務める著者は、その公式発表を受けてイスラエルで精力的に取材し、2019年5月に『シャドー・ストライク(Shadow Strike)』というタイトルでアメリカで出版しました。発売されるとすぐにベストセラーになり、『ニューズウィーク』(日本版2019年7月2日号)でも大きく特集されました。
本書は、爆撃作戦そのものはもちろん、そこに至るまでのイスラエル情報機関の情報収集活動、米政権への情報提供、米政権内での意見の対立、イラク戦で批判を浴びていたブッシュ大統領はシリアの核開発に対して強硬手段をとることができず、結果イスラエルは単独で爆撃するに至った経緯、さらにシリアのアサド大統領は原子炉を破壊されても「沈黙を守る」と心理分析し、開戦のリスクを低く見積もったことなど、まさに知られざる政策決定の内幕を描いた刺激的な内容です。
国際政治アナリストの菅原出氏が解説するように、原子炉爆撃から10年以上経過したこの時期にイスラエル政府が公式に認めたのは、核開発を加速させるイランに対する警告であることは間違いありません。「2つの敵国に存在した2つの原子炉を破壊した唯一の国」を自任するイスラエルが今後、イランに対してどのような手段をとるのか目が離せません。そんな複雑な国際情勢を見るうえで本書はさまざまな示唆を与えてくれます。
はじめに(一部)
2007年9月6日朝、私はイスラエルの軍事担当の記者数人と、ある衛生科司令官(准将)のブリーフィングを受けるため、イスラエル中部にあるイスラエル国防軍(IDF)の基地に招かれていた。
司令官は衛生技術の進歩と前年のレバノン侵攻から学んだ戦訓をどう活用しているかについて説明した。
その時、謎の事件が発生したとして私たちの携帯電話が鳴り始めた。シリア政府の報道機関、SANA(シリア・アラブ通信社)が、シリアの防空システムがイスラエル軍機を駆逐したと短い発表をしたという。
私たちは何が起きたのか説明するよう司令官に迫った。司令官は、もしそれがイスラエル軍機なら、おそらく作戦は重要なものだっただろうと口ごもりながら答えた。
それから何日か過ぎ、この夜に起きたことの真相が語られるようになると、私たちは欺かれたことを知った。IDFの広報部は私たち記者を衛生科のような後方部隊のブリーフィングへ行くよう意図的に仕組んだのである。すべてはシリア北東部で何が起きたか、記者の目をそらすために……。
これ以降、私はこの事件の虜になった。数年かけて細部が明らかになるにつれ、この事件はイスラエルだけではなく全世界にとって非常に重要なものであることを確信した。イスラエル情報機関による原子炉の発見、アメリカ政府への情報提供、長引く閣議と首相の決断、イスラエル軍機の鮮やかな攻撃、世界の目を欺く欺瞞工作……等々、冒険映画に必要な素材はすべて揃っていた。(ヤーコブ・カッツ)
目 次
はじめに
第1章 秘匿された原子炉攻撃
第2章 「シリア核科学者」急襲作戦
第3章 同じ間違いはできない
第4章 「原子炉攻撃」再び
第5章 時計の針は進む
第6章 オルメルトの戦い
第7章 攻撃のとき
第8章 アサドは何を考えるか?
第9章 開戦の準備
第10章 モサド・CIAの秘密作戦
第11章 イラン危機を見据えて
脚 注
訳者あとがき
解説 イスラエル諜報史上に残る極秘作戦(国際政治アナリスト 菅原 出)
ヤーコブ・カッツ(Yaakov Katz)
『エルサレム・ポスト』紙編集主幹。シカゴ出身。イスラエル経済相とディアスポラ(海外在住ユダヤ人)担当相の上席政策顧問、ハーバード大学の講師を務める。2013年ハーバード大学ニーマン・ジャーナリズム財団で研究。現在エルサレムで妻のハヤと4人の子供と暮らす。共著書に『Weapon Wizards(兵器の天才)』と『Israel vs. Iran』がある。
茂木作太郎(もぎ・さくたろう)
1970年東京都生まれ、千葉県育ち。17歳で渡米し、サウスカロライナ州立シタデル大学を卒業。海上自衛隊、スターバックスコーヒー、アップルコンピュータ勤務などを経て翻訳者。訳書に『F-14トップガンデイズ』『スペツナズ』『米陸軍レンジャー』『欧州対テロ部隊』『SAS英特殊部隊』(並木書房)がある。