並木書房から発売中の『蘇る翼 F-2B 津波被災からの復活』(小峰隆生/柿谷哲也撮影)の書籍紹介です。
災害直後の2011年4月、松島基地を取材で訪れた筆者は、津波で大きく損傷したF-2Bを見て、復活を期待しつつも、精密機器の塊である戦闘機を完全修復することは不可能だろうと思ったそうです。しかし、航空自衛隊にとって複座型のF-2Bは、戦闘機パイロット育成のために、なくてはならない機体でした。しかも、すでにF-2の生産は終了しており、新たに製造することはできません。このままでは日本の国防に大きな空白が生まれてしまう。何とかして、被災した松島基地を再建し、F-2Bを復活させることはできないだろうか—震災後、ただちに空幕内に「チーム松島」が結成され、前代未聞の「海水漬け」戦闘機の修復プロジェクトがスタートしました。そして、関係者の尽力の結果、被災した18機のF-2Bのうち13機が修復されることになり、今も再建された松島基地に続々と帰還しています。
この前例のない修復プロジェクトは、いかに実行され、成功したのか? 筆者らは、数か月かけて、航空幕僚監部、松島基地、三菱重工業小牧南工場、IHI瑞穂工場、国会議員など、多くの関係者にインタビューを重ねました。そして、このプロジェクトが関係者の熱意や努力ばかりではなく、深い洞察力に裏付けされた判断力と実行力によって成し遂げられたことがわかってきました。さらに津波襲来時になぜ航空機を空に逃がさなかったのかと、その判断を問う声もありましたが、当時の判断が正しかったことは、第4航空団司令を務めた杉山元空将補をはじめ松島基地の現役隊員の証言を聞けばよくわかります。杉山元司令は着任後、二度にわたる「津波対処訓練」を実施し、千人の隊員を1人も犠牲にすることなく、短時間で無事避難させました。
損傷した航空機や施設、すなわち戦力をどうやって回復させるか、そのためには何をなすべきかを計画・立案した空幕の強力なリーダーシップ、予算措置など政治・財務面のサポート、そして何より損傷機の修復に取り組んだメーカーの熱い「ものづくり魂」がひしひしと伝わる感動のドキュメントです。
- 単行本(ソフトカバー): 214ページ
- 出版社: 並木書房 (2017/6/5)
- 定価: 1500円+税
- 発売日: 2017/6/5